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海トキドキ、テトラポット
4月30日は魔女の集会の日。今晩はヴァルプルギスの夜だと、「ドイツ語圏文化論」の教授が鼻を高くして言っていた。
その一年の悪行を、集まった魔女に報告し合う会だという。
悪行なんかしない庶民の俺は、前の一年を振り返ったところで、空も飛んでいないし悪魔にも会っていない、身体に軟膏を塗りたくってもいなければ、くしゃみ予防の薬草を採集してもいない。
唯一、懺悔する事があるとすれば、「先輩」に告げていない事だろう。
俺の中を、言葉の針が踊り廻る。
そんな事を考えながら、講堂を出て、先輩が待っているカフェに向かっていた。
ふと空を見ると、水をたっぷり取って青の水彩絵の具を塗りたくったみたいな薄く綺麗な青だった。リゾート地の海の写真に、あんな色の波打ち際があったっけ。
「淡いマリンブルー色の空」
両手の指で長方形を作り、カメラのつもりで空を切り取る。
シャッター音の代わりに、立ち止まって空を仰ぐ俺の耳に聞こえてきたのは――。
「痛っ!」
水飛沫のような、激しい糸雨の音だった。
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