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カモメ銀河、恒星一つ
テトラポットを避けながら、俺は先輩の元へ急いだ。
自分の身体が動いているのか、止まっているのか分からなかったけれど、はっきり分かっていた事は、先輩に早く会いたいという事だけだった。
テトラポット。
輝くそれらは、微動だにしない人間の胸を刺す。
それは、言葉みたいだと思った。
心に突き立てられる刃は、言の葉の刃だけで、その傷を癒すのもまた言葉だ。
『あー、俺、女だったらもっと仲良くなれたのかな』
先輩のこの言葉の傷を、私は癒したかった。
だから、俺になったのだろうか。
それは、少し違う気がする。
今まで私の中でくすぶっていた違和感めいたものが、先輩の言葉を聞いてからより大きくなった。その行く先が、ここだったというだけだ。
だからこそ、私は先輩に告げられなかった。
告げられない言葉は罪悪感になって、自分の心を傷つけていく。
その歪な形と、先輩と、自分と、周りと。色んな方向に飛びだした棘が、私にはテトラポットみたいに見えたんだ。
きっと、あの人たちの宝石や、それが集まってできたテトラポットも同じだと思う。
言葉の形。心を癒し、傷つけもしてしまう、それは人の言葉の形だった。
人の言葉が空に穴を空けて、透明色の水で浸してくれたのだ。
この水の中だったら、私は先輩に言えるかな。
そのボロボロな気持ちを、癒す空の水の中で。
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