夢に生きる

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 その場所は、きっとスーパーの店内をイメージしているのだろう。  商品が所狭しと並び、女はレジの前にいる。  店内には子どもを肩車する初老の男や、なぜかピエロもいる。  女の前には会計済みのカゴを持ち上げる、20代半ばの女性がいた。左手の薬指には、シルバーのリングが輝いている。  その隣にはもう一人。20代後半から30代くらいの男性。  男性は会計済みのカゴの中にスナック菓子を一つ放り入れた。  それを合図に、女の仕事は始まる。 「102円です」 「ねえ、これって会計したの?」 「102円です」 「会計してないのにカゴに入れたら、なんか万引きみたいじゃん!やめてよ!」 「102円です」  女性が声を掛けている相手は、レジにいる女ではなく、男性へ向けてだ。  それでも女は女性の言葉を気にすることなく、壊れたスピーカーのように呪文を唱え続ける。 「細かいお金ある?」  呪文をひたすらに唱え続けている間も、物語は進んでいる。  キャッシュトレイの上には、50円玉が1枚、10円玉が3枚、5円玉が1枚、1円玉が5枚の合計90円。 「俺細かいの持ってるよ」  そう言って男性は、財布の中から1枚の5円玉と5枚の1円玉も取り出し、キャッシュトレイに乗せた。 「めっちゃ細かくなるじゃん。恥ずかしー」  この台詞を合図に、女は心の中でカウントダウンを始める。 5 4 3 2 1
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