5・モンスターズ:包囲

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5・モンスターズ:包囲

私にとってはこの冒険が終わりに向かう旅路になると、それはコロニーを旅立つまえから知っていた。 パイオニアの新天地への旅路にかかる歳月には目安がない。一生を費やしたところで、見つけられないかもしれないのだ。だからか、私はぬかりなく保存食を買いだめした。冒険者としての稼ぎも、武器と弾薬、それと備品に費やした。だが、どうして、終わりに向かう旅路に、生きるための糧がいるのか。何故、銃や爆弾を使ったところで終わりを打ち負かすことはできないはずなのに。そんな、みずからの矛盾に勘づいていながらも、それでも、私はバックパックが一杯になるまで荷づくりをやめはしなかった。 旅立ちの前夜には眠りもできず、朝になるまで武器にブラシをかけながら、怖気にふるえる手をごまかしていた。アウトフィールドでの基礎的な知識も、戦いかたも覚えているはずなのに、いったい、なにを恐れるのか。 それらの答えはたった今、ついに私は砂嵐の晩になって閃いた。私から見える遠景では、スクラッパーズの放り投げた火炎瓶が宙を舞い、パワードスーツの宇宙飛行士はおびただしい数の曳光弾をシャワーのように降らせている。そもそも、ガスマスクのサバイバーとタトゥー頭のスクラッパーズを近くに見ているだけですら、回答はパーフェクトに得られていた。 何故、どうして、終わりに近づくのに、私は生きようとしているのか。単純ながら答えは、このような光景を私の終の地にしないためだ。つぶらな瞳のタトゥー頭のスクラッパーズと、ボロ布のオバケのようなサバイバーを見おさめにするために、私は冒険者としてアウトフィールドの過酷な道のりを来たわけではない。 ここは冒険者たちが語り継ぐ、パイオニアの新天地とはまるで、ほど遠い光景なのだから。 「オレのバルハラ行きのチケットは……?」 「キミたちのバルハラはオメデタイね……」 タトゥー頭の述べる、バルハラ行きのチケットの意味をサバイバーが正しく解釈しているかは怪しいが、ただ、二人にとっては敵味方を識別するための旗色として働いているには違いない。少なくとも、サバイバーが素直な真相を述べたところで。 「ワタシが、キミのバルハラ行きのチケットさ」 とは、喜んで発言することはないだろう。サバイバーが私の鏡うつしなのだとしたら。あるいは私とおなじ考えかたの持ち主ならば。……サバイバーを信じるには、私は汚れだらけで生きてきた。数枚の硬貨をめぐって冒険者同士で仲違いしたこともあれば、モンスターのオトリにされる人々を目鼻の先で見捨てたこともある。私の意図を問わず、いずれも、生きるための決断はひとつしか用意されていなかった。 例えば、さきほどだって。コロニーで知り得た倫理観を理由としてサバイバーのオーバーキルを制止していたならば、私には敵が増えていたに違いない。ただでさえ、味方のいないアウトフィールドなのだから、敵を作らない方法があるのならば、他の選択肢は目にすらしなかった。発声できない私にとっては、敵ではなさそうな立場の者が遠ざからないようにふるまうだけで精一杯になってしまうのだから。 遠ざかる者に対して、私は言葉によって、しがみつくことができないのだから、次には爪をたてるしかなくなってしまうのだから。とどのつまり、アウトフィールドではサバイバーの述べる撃たない者のひとりになることすらが、難しい。 到底……、サバイバーが、私の鏡うつしになるならば、なおさらに信じきることはできなかった。私の遠景では再装填を終えたパワードスーツがふたたび、四方八方に雨あられの弾幕をはった。
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