春心

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春心

家の近くの川原に近付く直前、カバンからスマホを取り出して時間を確かめた。 この時間だったら、会うかもしれない。 気を抜くと緩みそうになる口元をきゅっと引き締めると、あたしはカバンにスマホを突っ込んだ。 もう三月も終わりに差し掛かる頃だけれど、夕方の気温はまだまだ低い。 あたしはコートのポケットに手を突っ込むと、歩く速度をあげた。 しばらく歩いていると、馴染みの川原が見えてくる。 周囲を気にしながら河川敷沿いの道を歩いていると、黒いジャージ姿の男の子が向こう側から走ってくるのが見えた。 彼に気付いたのは、あたしのほうが先だ。手を振れば、彼は笑いながら、速度をあげて駆け寄ってくるだろう。 だけど、自分からアクションを起こすのはなんとなく癪だった。 何も気付いていないフリをして歩き続けていると、ようやくあたしに気付いた彼が大きく腕を振りあげた。 「まおちゃーん!」 最後に顔を合わせたのは、三学期の修了式の日だったから…… 会うのは、二週間ぶりかもしれない。 相変わらず、声とリアクションがデカい。
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