胸中

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胸中

ピアノの音が聴こえなくなってたっぷり三十分ほど待ってから、姉の部屋の前に立った。 半年前に「嫌いだ」という感情をぶつけたあと、あたしは一度だけ、キツい言葉をかけすぎたことを姉に謝罪した。 あたしに謝られた姉は困ったように眉を垂れて、哀しげに首を横に振った。 「真音のこと、知らずにずっと傷付けいてごめんね」 うつむく姉の横顔は、儚げで美しくて。そのせいか、姉のくれた言葉はどこか薄っぺらく聞こえた。 それ以降、あたしと姉は表面上は平穏を保っている。だけど、あたしも姉もお互いに必要以上に話しかけない。 特に姉のほうが、あたしを避けて気を遣ってくれている。それがわかっているから、こんなふうに姉の部屋の前に立つだけでも相当な勇気が必要だった。 でも、部屋の前に立ったものの、なかなかドアノブに手がかけられない。 右手だけを上げては下げて。地味な運動を何度か繰り返していると、内側からガチャリとドアが開いた。
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