胸中

2/21
前へ
/73ページ
次へ
「真音?」 僅かに開いたドアの隙間から、姉が顔を覗かせる。 「やっぱり、外で気配がすると思った。どうしたの?」 前までなら、明るい笑顔でパッとドアを全開にしていた姉が、ドアの隙間からあたしの出方を窺っている。 そんなに警戒しなくても……、苦笑いを浮かべつつ。でもそんなふうに姉を警戒させているのもあたしなんだと、自嘲した。 このまま「何でもない」と、逃げてしまえばラクだけど、今日のあたしはそういうわけにもいかない。 ふたりの均衡を崩したのはあたしのくせに、勝手だけど姉に頼みたいことがひとつあった。 「断ってくれていいし、もしよかったらでかまわないんだけど……」 そこまで言って口籠もってしまったあたしの言葉の続きを、姉がドアの向こうでジッと待ってくれる。 「明日、何か服を貸してくれないかな。その……、お姉ちゃんがよく着てるようなふわっとした可愛い感じのやつ」 ドアの向こうの姉の視線を避けるように、斜め下の床に視線を落とす。それでも、話しながら頬がかかーっと熱くなっていくのは抑えられなかった。
/73ページ

最初のコメントを投稿しよう!

182人が本棚に入れています
本棚に追加