胸中

5/21
前へ
/73ページ
次へ
「いつも着てるシンプル目な服も真音に似合ってるけど、よかったら候補のひとつに入れてみて」 黙り込んでいるあたしの手に、姉が白のスカートとグレーのトップスをやや強引に押し付けてくる。 戸惑い気味にそれらを見つめていると、姉が困ったように眉尻を下げた。 「真音が私に何か頼んでくるのって珍しいし。もしかしたらその……明日誰かとデートだったりするのかなって。でも、無理に着てってことではなくて、もしよかったら、ってことだから。余計なお世話だったらごめん……」 早口に話す姉の声量が、自信なさげにだんだんと先細っていく。しょんぼりとした様子で目を伏せた姉の横顔は、それでも整っていて綺麗だった。 これまで付き合ってきた彼氏と出かけるときに、姉の服を借りようと思ったことは一度もない。 そんなあたしが姉の服を借りたいと思ったのは、明日一緒に出かける相手が古澤柊斗だからだ。古澤柊斗が好きなのは、姉みたいなタイプだから。
/73ページ

最初のコメントを投稿しよう!

182人が本棚に入れています
本棚に追加