胸中

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◇ 約束の土曜日。古澤柊斗と待ち合わせをしたのは、映画館のあるショッピングモールの駅前だった。 普段は時間ぴったりにしか行動しないくせに、今日に限って待ち合わせ場所に着いたのが約束の時間の十分前。 姉に借りた白のシフォンスカートから出した脚は妙にそわそわするし、ゆるめのおだんごに結われたせいで剥き出しになった首の後ろがスースーする。 これ、変じゃないかな……。 足元にできた影を見つめながら、いつもと違う自分の頭に触れる。 普段は結ばずにおろしたままでいる髪を、おだんごに結ってくれたのは姉だった。 借りた服を着て出かけるかどうかぎりぎりまで悩んだ結果、白のシフォンスカートを着て部屋から出たら、朝食を終えて階段を上がってきた姉に部屋の前で捕まったのだ。 姉はあたしが借りた服を着ていることに気が付くと、ぱっと顔色を明るくしてあたしの腕を引っ張った。 部屋に引き込んで、あたしをピアノの椅子に座らせた姉は、頼んでもいないのに私の髪をひとつに纏めあげてしまい…… 「いつもと違う雰囲気で可愛いよ。頑張ってきてね、デート」と、満足げにほほ笑みながら私を家から押し出した。おかげで、じっくり鏡を見る暇もなかった。 電車に乗っているときに窓に映る自分の姿を確かめてみたけれど、慣れない髪型が姉の言うように「可愛い」のかどうかは謎だ。
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