春心

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「ねぇ、まおちゃん。土日って予備校休み?」 「土日?休みだけど」 「じゃぁ、今週の土曜日って時間ある?」 「ある、けど……」 古澤柊斗があたしの顔色を窺いつつ、ぽつりぽつりと訊ねてくる。 古澤柊斗に週末の予定を聞かれるのは初めてだ。迷いながら言葉を選んでいる様子の彼に、あたしはまた期待してしまう。 土曜日に、何があるというんだろう。 古澤柊斗の次の言葉をじっと待っていると、彼が随分と間を置いてから躊躇いがちに口を開いた。 「土曜日、もしまおちゃんが時間あるなら、バレンタインのお返しを渡しにいきたいなーって思ってて」 「へ?」 まさかそんなことを言われるとは思ってもみなかったから、単純に驚いた。 「いや。ホワイトデーは過ぎちゃったんだけど、何かお返ししたいとはずっと思ってて……でも、期末テスト終わったらすぐ春休みに入っちゃって、学校で会えなくなったから」 あたしがぽかんとしていると、古澤柊斗が顔の前であたふたと手を動かして、焦ったように一生懸命言い訳をする。
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