聖夜は甘く濃蜜に

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 十二月も後半に差し掛かり、今年も残すところあと二週間となった。  園崎日菜子は現在、元マフィアにして恋人である小田切玲司と暮らしている。  玲司と出会ったのは今から六年前、日菜子が大学二年生の時である。  当初、玲司の素性を知った時は、口封じに殺されるのではないかと思ったが、裏社会の人間とは思えないほど彼は優しく接してくれた。  そんな玲司に次第に惹かれていったが、出会って一ヶ月後に突如別れを切り出され、彼はそのまま日菜子の元を去ってしまった。  どんなにこちらが求めようと、やはり彼とは生きる世界が違うのだと、その当時は深い悲しみに打ちのめされてなかなか立ち直れずにいた。  だが、数ヶ月前に玲司と再会し、自分のために組織を抜けた彼とこうして幸せな日々を送っている。  そして来週には、玲司と初めて過ごすクリスマスが控えている。  日菜子はずっと、その日を迎えるのが楽しみで仕方がなかった。  この六年間、クリスマスが近づくたびに彼女は気分が沈んでいた。  初恋の人と過ごせなくて悲しいというのもあったが、一番の理由は彼の隣に他の女性がいるのではと不安になったからだ。  先日、そのことを玲司に打ち明けると、彼もクリスマスは日菜子のことばかり考えていたと話してくれた。  どんなに離れていても、お互い同じ気持ちでいたのが嬉しくて、諦めずに六年間待ち続けてよかったと改めて感じた。  そして二人は、今年は最高のクリスマスにしようと約束を交わした。  ところが困ったことに、玲司に贈るためのプレゼントはまだ決まっていない。  十二月一日が彼の誕生日だったため、その日にすでに手編みのマフラーを渡しており、何を贈ればいいのか思いつかずにいる。 (無理して買う必要ないって、玲司さんは言ってくれたけど……)  だが、せっかくのクリスマスなのだから、特別なものでなくても何か贈りたい。  明日はちょうど、大学時代の友人である藤堂朱美と会う約束をしている。その際、彼女に相談してみるのもいい。  日菜子が来週のクリスマスに思いを馳せていると、通話を終えた玲司が寝室に戻ってくる。 「……ったく、俺達の甘い時間を邪魔しやがって」  玲司は忌々しげにつぶやくと、やや乱暴に扉を閉めてスマホの電源を切った。  通話時間は五分程度だったが、彼としては自分達の甘い時間を邪魔されて苛立っているのだろう。  そんな玲司が愛しいと同時に微笑ましくて、日菜子がたまらずクスッと笑う。 「もう、玲司さんったら。そんなに大した時間じゃないでしょう。それに、私はどこにも行ったりしないから」 「それはわかっているが、俺とお前の時間を邪魔されたのが気に入らないんだ」  玲司は日菜子に抱きつくなり、豊満な膨らみに顔を埋めてくる。 「もう……」  その姿がまるで拗ねる子供みたいで、日菜子は困ったように苦笑しつつも彼の頭を優しく撫でる。  彼女に撫でられたことで気持ちが和らいだのか、玲司は打って変わって優しい口調で話しかけてくる。 「そういえば、明日は藤堂さんと会う約束だったよな?」 「うん、そうよ」 「ちょうど俺も、出かける用事ができたから送ってやるよ」 「いいの? ありがとう、玲司さん」  日菜子は嬉しくなって玲司を愛しげに抱きしめるが、それが彼の欲情を掻き立てたことに気付かなかった。
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