聖夜は甘く濃蜜に

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 夕方、マンションに帰るなり日菜子は、昼間に撮影したパンケーキの写真を玲司に見せていた。 「朱美と一緒に入ったお店のパンケーキ、すごく美味しかったの。今度は一緒に行こうね」 「ああ、約束だ。日菜子が美味しそうにパンケーキを食べる姿、藤堂さんだけが知っているのも癪だからな」  玲司の声色に若干刺が含まれているのを聞いて、日菜子は困ったように苦笑する。 「もしかして、嫉妬してる?」 「まあ、少しだけな。彼女がお前の大切な友人だってことは、頭ではちゃんとわかっているんだが、それでもずっと独り占めしたいと思ってしまうんだ」  言い終えると同時に玲司は、どこへも行かせないという風に抱きしめてくる。 「大丈夫、私はずっと玲司さんのそばにいるから。玲司さんも、もう二度と離れたりしないでしょう?」 「もちろんだ、何があってもずっとお前と一緒だ。ただ、少しでも離れていると不安になることがあるんだよ。六年も離れ離れになっていたせいかもしれないが……」  玲司は小さくため息をつくと、再び日菜子をギュッと抱きしめた。  この時の彼は微かに震えていて、まるで何かを恐れているように見えた。 「……玲司さん、出かけている間に何かあったの?」  日菜子の問いかけに、玲司はためらいがちに口を開く。 「ずっと黙っていようと思ったんだが、現実から目を逸らしたくないんだ。だから改めて言わせてほしい。日菜子、あんな恐ろしい目に遭わせてしまってすまなかった……!」  玲司が言っているのは、ニックに拉致されて銃を突き付けられた時のことだと、日菜子はすぐにわかった。  あの日からもう何週間も経っているが、未然に防げなかった後悔や自身の目の前で殺されるかもしれないという恐怖が、玲司の中で今も渦巻いているのがはっきり伝わってくる。 (玲司さん、私以上に苦しんでいたなんて……)  ずっとそばにいながら、そのことに気付けなかった自分が情けない。  いや、玲司のことだからこちらに気を遣って、この話題を避けてきたのかもしれない。  彼の心を少しでも癒してあげようと、日菜子は優しく微笑みかけて抱き返した。 「私なら大丈夫だから安心して。確かにあの時はすごく怖かったけど、それ以上に玲司さんが絶対に助けてくれるって信じていたから」 「ありがとう、その言葉が聞けて良かった。お前に恐ろしいトラウマを植え付けてしまったんじゃないかって、ずっと心配していたんだ。だが、これでようやくお前と幸せで平和に暮らせる」  安堵の表情を見せる玲司に、日菜子は満面の笑みを向ける。 「これで安心して、クリスマスも迎えられるね」 「ああ、そうだな。絶対に忘れられない最高のクリスマスにしよう」  その約束を誓うように、二人は抱き合った状態で唇を重ねた。
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