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そしてついにクリスマス当日を迎えた。
ロマンティックな雰囲気を演出するために、この日はキャンドルに火を灯して夕食を取ることにした。
「よし、できたぞ」
日菜子がサラダを盛り付けたところで、玲司はメインディッシュのチキンクリームパイを運んでくる。
「わぁ、美味しそう!」
焼き立ての香ばしい匂いに食欲をそそられ、日菜子は表情を綻ばせて感嘆の声を上げた。
「お前のために愛を込めて作ったんだ、美味いに決まっている」
玲司は茶目っ気たっぷりに告げると、二つのグラスにワインを注いでいく。
日菜子も玲司のために料理の腕は磨いてきたが、それでも彼には全然敵わなかった。
それからほぼ同時に席に着くと、グラスを手に取り乾杯する。
濃厚なワインを一口味わったのち、日菜子はさっそくパイをいただくことにした。
食べた瞬間、香ばしいパイ生地とチーズ、そしてチキンの旨味とホワイトソースの味が広がっていった。
「どうだ? 美味いか?」
「うん、すごく美味しい!」
「藤堂さんと食べに行ったパンケーキよりもか?」
少し刺の含んだ口調で訊かれ、日菜子はたまらず可笑しくなって吹き出してしまう。
「もちろんよ。本当に嫉妬深いんだから……」
「六年間も離れ離れだったんだ、妬いてしまうのは仕方ないだろう」
「もう、困った人ね……」
愛してくれるのは嬉しいが、こうして独占欲が剥き出しにするのが玉に瑕である。
だが、独占欲が強いところも含めて、日菜子は玲司の全てが愛しくてたまらなかった。
「玲司さん、こんな素敵なクリスマスにしてくれてありがとう。玲司さんの作ってくれたパイ、本当に美味しくて心も体も温まったよ」
日菜子が改めて感謝の気持ちを伝えると、玲司は優しく微笑みかけてくる。
彼の笑顔は本当に魅力的で、見るたびに胸がときめいてしまう。
「お前に喜んでもらえて良かった。夕食が終わった後も、心と体をたっぷり満たしてやるからな」
その言葉が甘く淫らな時間を示しているとわかり、日菜子はたちまち頬を赤らめていった。
「何だ? そんなに顔を赤くして、もう酔ったのか?」
「わかっているくせに。玲司さんの意地悪……」
日菜子は拗ねた様子を見せては、黙々と料理を口に運んでいくが、もちろん機嫌を損ねてなどいない。
玲司もそれはわかっているようで、「そう怒るなよ」と悪びれもせずに笑っている。
こういったやり取りも愛しくて、この幸せな時間がいつまでも続くことを祈った。
夕食が終わって一休みしたところで、いよいよプレゼント交換の時間がきた。
――本当にこれで良かったのだろうか?
一つはちゃんとしたものを選んだのだが、問題は朱美が勧めてきた物のほうである。
これなら間違いなく喜んでもらえる筈だと、彼女や店員に言われるままに買ったのだが、どうしても不安が込み上げてくる。
いや、不安というよりむしろ、羞恥心の方が正しいかもしれない。
部屋で一人ドキドキしていると、玲司が綺麗にラッピングされた小箱を持って入ってきた。
「日菜子、お前へのプレゼントだ」
「ありがとう、玲司さん」
包みを剥がして箱を開けると、ハート型にカットされたクリスタルが付いたネックレスが入っていた。
「わぁ、すごく素敵……」
「一目見た瞬間、日菜子に似合っているんじゃないかと思ってな。気に入ってくれたか?」
「ええ、もちろん。デートの時は必ずつけていくね」
日菜子は満面の笑みを浮かべると、今度は玲司にプレゼントを渡した。
「これは良いグラスじゃないか」
玲司は嬉々とした表情で箱の中を取り出す。
日菜子が彼に贈ったのは、名前入りのグラスである。朱美と入った店で見つけたもので、それぞれの想い人の名前を入れてもらった。
「このグラスで酒を飲めば、もっと美味くなるだろうな。ありがとう、日菜子」
「うん! 私の方こそ、気に入ってくれてありがとう!」
嬉しそうに笑う玲司の姿を見届けながら、朱美も隼人に無事にグラスを渡せたことを祈る。
「ところで、その袋は一体何なんだ?」
玲司はグラスを箱の中に戻すと、日菜子の脇に置いてある紙袋を見て尋ねてきた。
(ついにこの瞬間が来てしまった……)
袋の中身を話すのは正直かなり恥ずかしい。さすがの玲司も引いてしまうのではと不安になってくる。
だが、訊かれてしまった以上、諦めて正直に打ち明けるしかない。
それに、このまま黙っていて下手な誤解を招くのも嫌なので、日菜子はおずおずと口を開いた。
「……実は、朱美に勧められてこんなの買ってみたの……」
日菜子は真っ赤になりながら、思い切って中身を取り出した。
袋から出てきたのはローズピンクのランジェリーだ。ブラジャーのカップはごく浅く、乳輪を隠す布が辛うじてあるが生地は極めて薄い。ショーツは一見すると普通のものだが、クロッチ部分に切れ込みが入っており、当然ながら陰部は丸見えである。
聖夜に愉しむなら絶対にこれがいいと、有無を言わさず朱美に押し付けられた。ランジェリーショップの店員も、愛する人を喜ばせること間違いなしだと太鼓判を押していた。
恐る恐る玲司の反応を窺うと、彼は目を輝かせながら「藤堂さんに礼を言わないとな」と独りごちた。
「えっと、玲司さん……引いてないの……?」
よもや気に入られるとは思わず、日菜子は少しばかり面喰ってしまう。
「引くわけないだろう。むしろ、愛する女のセクシーな姿を今すぐ見たくてたまらない」
それから玲司は日菜子を抱き寄せて、劣情に満ちた眼差しを向けてくる。
その視線に魅入られたように、日菜子の体はたちまち熱く火照り、胸の高鳴りも増していく。
「日菜子、今夜はその下着で愉しませてくれるよな?」
一応、問いかけてくれているものの、その口調には有無を言わせない響きが多分に含まれている。これはもう、こちらに拒否権などないに等しい。
「ええ、もちろん……」
正直、セクシーランジェリーを着ることにためらいはあるが、玲司に喜んでもらえるならと日菜子は意を決してうなずいた。
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