プレミアム・シネマ

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 あの人から、「たまには昼間に出かけない?」と誘われたのは、久しぶりの映画館だった。  随分と、映画なんか見ていない。最後に観たのが何だったのかすら、記憶にない。  待ち合わせた駅の改札口。柱にもたれて、中から溢れ出てくる人達の中に、あの人の姿を探す。  待ち合わせた時刻の5分前。茶色いロングヘアで俺より少しだけ背の低い、華奢な男が人波をくぐり抜けてくる。  2つだけ歳上の、彼だ。  彼は俺の姿を見つけると、にこっと笑う。そして、人の流れに逆らって、俺が立っている方へ向かってくる。俺も一歩踏み出して、彼を迎える。  頬は勝手に緩んでしまう。今日も彼はとても綺麗で、元々明るめの茶色い瞳はキラキラ輝いてる。 「お待たせ!」 「待ってないっすよ。まだ5分前」  行先案内板にある時計を指さすと、彼はそれを見上げた。 「ほんとだ。間に合った」 「はい、間に合ってるっすよ」  彼は再び俺の顔を見て、笑顔を浮かべる。 「行こっか!」  彼は世界的ミュージシャンで、俺はどうにかメジャーにしがみついてる、下手くそなギタリストだ。
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