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ああ、俺には理解しきれないような、荘厳で繊細な音を指先から紡ぐこの人にはぴったりだ。
「そこは、過去の名画がメインなんだ」
「どんなんすか」
「イントレランスとか、ベン・ハーとか…」
聞いてもピンと来ない。
やっぱり、この人とは住む世界が違う。俺が見たことがあるのはスパイダーマンやミッションインポッシブルなんかだ。
微妙な顔をしている俺を見て、彼は笑う。
「全然知らないって顔だね」
「すんません…」
彼が映画を一緒に見る相手として、俺は不合格だ。せっかく誘ってくれたのに、申し訳なくて項垂れる。
「映画の趣味合わないね」
「…そうっすね」
どうしてそんなに楽しそうに、この残念な事実を言えるんだろう。今から一緒に映画を見る相手がこの俺だなんて、時間の無駄じゃないのか。
彼と陽の光を浴びて外を歩けて、お定まりの映画館に行ける、と思った時には心が浮き立った。でも、断るべきだったんじゃないかって、今になって後悔してる。
「いいんだよ。前知識ない人が、どんな目線で見るのかなって、興味あるもん」
「それでいいんすか?」
「うん。面白いよね」
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