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俺が原因不明の微熱と不眠症に悩まされるようになったのはM87星雲に入った直後だった。正しくは不眠症ではなく、繰り返し同じ夢にうなされて眼を覚ます日が続き、船医に導眠劑を処方してもらうようになったのだが、その夢が日々鮮明になり、眠るのが怖くなった......というのが真相だ。
その夢は、いつも穏やかな庭園から始まり、瓦解していく都市と、そこから連れ出され、ある男の前に引き出され、そしてのし掛かられる所で目が覚めるのだ。男の顔ははっきりとは見えない。が、その男が俺を
『我が番』
と呼び、
『私の子を成せ』
と迫るその声だけがはっきりと聞こえるのだ。
判るのは、俺を産んだ人と同じ褐色の肌、頬に触れる金緑色の髪.....深い森のようななかに柑橘類の甘さの漂う香り.....俺の記憶には全く存在しないヒューマノイドの影だけだった。
俺はその『影』に恐ろしさと言い様の無い哀しさと切なさに耐えきれず涙を溢しながら目覚めるのだ。
ーなんなんだ、いったい......ー
その日は一段と鮮明に声が聞こえ、熱も38度近くに上がっていた。
「君は今日は船内で休んでいなさい。上陸には歴戦の強者達があたるのだから、心配はいらない」
船医の進言を受けて艦長の下した決断に反論の余地はなかった。
「君は大事な私の親友、ツカサの息子だ。無理はさせたくない」
艦長のナシルの言葉に、船医のDr.T.Eも静かに頷いた。
そして、惑星『タルボット』への上陸は開始された。
だが、艦長の言葉に反して、上陸した乗組員は誰も戻ってはこなかった。
『ラディアン』の軍隊に捕捉され、本星に連行されたと知ったのは、上陸部隊からの通信が途絶えて二日の後だった。
俺達は人質を盾にしたラディアンの艦隊に周囲を囲まれ、そのままラディアンに連行されることになった。
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