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ドライオン女王時代の善政
わがマルーシュカ王国の歴史上でも、ドライオン女王の善政ほど、小学生にまで至る全国民に、遍く知られた史実も少ないだろう。
まだ王家に嫁いだばかりだった十八歳の若き女王が、夫君ムルクサンテ十三世の不慮の死により王権を受け継ぎ、ちょうど十年目の出来事であった。
未だ世界が封建主義・絶対王政下にあった中世期、あらゆる国に先駆けて国民の力に気づき、これを最大にすることこそ国家の繁栄に不可欠であると見抜いた、その慧眼。このお陰でわがマルーシュカ王国は著しい経済発展を遂げ、市民社会を実現し、資本主義への道を開いた。
他の国々が、血なまぐさい革命を経て、犠牲者の骸の山を築いた挙句、ようよう辿り着いた社会体制を、ごく平和裡に確立し、しかも王制を残存させつつ、貴族制のみを廃し、平等な社会を創造し得たその出発点が、ドライオン女王の奇跡的な善政であることは、論を待たない。
以降、女王は常にわれわれ国民の崇敬の的であり、その非の打ち所なき美貌は肖像画となっていまなお国中の家庭に飾られているにもかかわらず、一体どのようなきっかけでこの先見に富んだ政策が生まれたのかは、かつて詳らかにされたことがない。
これは、わが国歴史学徒の怠慢と謗られても致し方ない。
しかるに、吾輩はこのほど発掘した新史料に基づき、長年に渡る国史最大の謎を明らかにすることに成功したのである。
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