血はアイよりも濃く

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「…おかしい」  お外ではしたないと思いつつ、首もとをパタパタとさせて空気を取り込む。汗が滲んで、セーターも脱いで日除けに被りたいくらいだ。 「どしたの、パンダちゃん」  隣から声を掛けられ向き直す。さっきまでの様を友達の星野琵音(ほしのビオン)が、自身のウェーブヘアをくるくるしながら訝しい様子でこちらの面持ちを見ていた。  因みに、パンダちゃんというのは私のアダ名。本名が黒柳真白(くろやなぎましろ)だから、白黒でパンダ。安直極まりないが、意外と気に入っている。 「いやさ、私こんなに暑がりだったっけってね」  もう年明けして久しい時期。長い間寒気が空の上に居座っていた故に、雲ひとつない快晴は久しぶり。  本当ならぽかぽかで喜ばしいはずなのだが、私としてはその逆だ。太陽まで顔をマスクしていたあの頃が恋しいとまで思える。 「そうなの? むしろ寒いくらいなのに」 「だよねぇ。去年の年末かな、急に暑がりになっちゃって」  陽光から逃げるように俯きつつ、私は話ながら一点をじっと見つめる琵音が不思議そうに思えてならない。 「てか、さっきから何見てんの?」  首を伸ばして琵音の携帯の画面を覗き込む。それを嫌がる素振りもなく、寧ろ画面を横回転にして見やすくしてくれた。  映っていたのは、何だかやけに犬歯の長いイケメンが、足で踏んづけそうになるくらい長いマントを翻している姿だった。 「…吸血鬼モノの映画?」 「そ。好きな俳優が主演でさ。血を与えられた人が同じように吸血鬼になっちゃうっていう、アレ」  よく聞く話だ。あちら側が食事目的で一方的に吸っておいて勝手に同類にされるとか、普通に迷惑だろう。  そういえば、吸血鬼は日光に弱いって話を聞く。いやいやまさかまさか、 「私も吸血鬼になっちゃったー、なんてね」 「いやいや、パンダちゃんこの間ガーリックトーストバカ食いしてたじゃない。絶対ないわ」 「そっかー、イケメンに吸われてないかー。蚊には人気なんだけどなー」
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