血はアイよりも濃く

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 他愛のない雑談を交えつつ、青になった信号を歩くなか、私はずっと頭をもたげている内容を切り出す。 「…ところで、ちょっと課題手伝ってほしいんだけど──」  そう口にした途端、楽しげな笑みは、滅茶苦茶冷たい笑みで上書きされる。 「アンタ、いい加減自力でやることを覚えなさい。人を駆け込み寺にするのはおよしなさい」 「そ、そんなぁ。一生のお願い!」 「一生のお願い何回やるのよ。トラックに跳ねられて転生してからやり直しなさいな」  うーん、なんと手厳しい。虎の子のチート(友達)が封じられた。これは詰んだ。 「そ、そんな後生ですって。新作スイーツおごるからさー」  必死に胡麻すりをするも、琵音は頑なに「ノー」を突きつけてくる。すっかりお説教モードに移行した以上、これ以上の協力を引き出すのは無理がありそうだ。 「だいたい、あたしはあんたのためを思って言ってんだからね? 人に頼ってばっかじゃ──」 「あーあー、私はなーんも聞こえない聞こえないー」  おふざけで耳を塞いで説教をやり過ごす。今日のは特に口煩いのか、押さえても聞こえてくる。 「──あれ?」 …ふと、妙な違和感が生じた。普段のお説教にしては大きい、塞いでいる筈の耳でも聞き取れる程の、大きな音。  それはちょうど、私と向き合っている琵音の背後からだ。  彼女が発していない、しかし耳をつんざくような大きな音。 ……嫌な予感が、ぞわりと背中を駆け抜けていく。 「ねえ、あんたホントに──」 「ゴメン!」  考える余裕もなかった。私は咄嗟に出せる力をもって、琵音を脇へと突き飛ばす。 「ちょっ──」  何か、言葉を残す暇もなかった。彼女も突然のことで、何が何だかわからないっていう顔をしていた。 「──あ」  強い衝撃を受け、私の体にはゆっくりとした浮遊感と、澄んだ空と染めた緋色髪の端っこが視界に映る、不思議な感覚が妙に長く感じられた。  そう思った次の瞬間には、私の体はコンクリの上をサッカーボールのように勢いよく跳ねては転がっていた。
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