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「ん…」
太陽がいやに眩しく感じ、目を開く。いつの間にか体は横たわっていて、真冬のコンクリートの冷たさが背から伝わってくる。
「いっててて……」
立ち上がれない程じゃないが、どうにも体の節々が痛い。ついでに前後の記憶も曖昧だ。
何が何だかさっぱりだが、手足はちゃんと二本ずつあるし、土手っ腹にナニがぶっ刺さってもないようで、五体満足という言葉がぴったりだ。
よっこいしょ、とオッサンみたいな掛け声で上体を起こすと、ふいに何かが胸に飛び込んできて、また背中がコンクリートの上に戻る。
「び、琵音? どうしたの、そんな……」
「……よかったっ…!」
…その一言は、彼女と見知ってから一度も聞いたことのない、限界まで痩せ細った状態から絞り出すような、心の底からの安堵だった。
生きた心地がしないとでも言いたげな、血の気が引いた横顔が事の重大さを物語っているようだった。
「ねえあんた、ホントに平気なの!?」
そう叫ぶ琵音は、本当に信じられないって顔で、それこそ私自身も困惑するほどに平静を保てていない。
「へ、平気だよ。というか、何が起こったの? なんかよくわからないんだけど…」
「…覚えてないの? あたしをかばって、トラックに跳ねられたのよ。減速していない、アクセル全開のヤツにぶつかって、人形みたいにふっ飛んだのよ…?」
そう言われ、辺りを見回す。けたたましいサイレンが至るところに響き渡り、割れたガラスだか何だかの部品が一帯にぶちまけられていた。
横断歩道の白線を境に、スクラップ手前の車がいくつも転がっていて、何台かいる救急車から白衣の数人が引っ切り無しに動き回っている。
特に目を引くのが、派手に横転した貨物車だった。中央あたりにはちょうど人一人すっぽり収まるような窪みがあり、赤黒い染みが白い車体にさよく目立つ。
「…運転手、さっき運ばれてたけど。たぶん即死だったと思う」
「……」
…言葉がでない。サイレンに混じって、誰かの哭き声が耳をつんざく。一分一秒で命が蝋燭の火ようにあっさり消えていく。
毎日報道される、ニュースの上でしか見たことのない光景を前に、呆然とする他なかった。
「…ねえ、琵音。鏡、貸してくれる?」
合点がいかない様子ながら、琵音はカバンの中から折り畳みの鏡を出してくれる。それを開いて、私の全身を映そうとする。
「……なんで?」
──目がぼやけているのか? 信じがたいことだが、私の体はコンクリートの上で擦りきれてボロくなった服しか映っていない。
なので、今度は私自身の目でぐるりと見渡す。変な話、服が傷ついているのに、私の体はかすり傷しかない。
自分で言ってて何だが、なんで平気なのかわからない。琵音の説明通りなら、おおよそ生きている理由が見当たらない。
滅茶苦茶痛いどころか、こうして話すことさえできない筈なのに、こうして無事でいる理由が説明できない。
「…っ」
何故か、首筋が痛む。どこか捻ったような痛みではなく、針を刺したような痛みだった。
首筋を指でなぞると、注射痕のような小さな傷があった。飛び散ったガラスで傷ついた訳でもなく、直近よりも少し前であろう傷だった。
「私、こんなところに怪我…?」
どうにも記憶が曖昧だった。去年の末だったか、道のど真ん中で転がっていた時があった気がする。その時も、前後の記憶がはっきりしていなかった。
「私は、何か…忘れているの?」
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