血はアイよりも濃く

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 あれからもう数週間経つ。事故の直後はマスコミやら警察やらで、まあ忙しくて仕方なかった。  おかげで奇跡の少女、とかいって軽く新聞の一面を飾ったことがあるが、正直変な目立ち方をするのは本意じゃない。  そのせいか、こうしてほとぼりが冷めるまでは大人しく一学生らしい生活を送っていた。  あれ以来、琵音とは少し気まずくなっていた。彼女自身負い目があるのか、以前みたく軽口を投げ合う機会がぐっと減ってしまって、それがなかなか堪えている。  丁度、バレンタインの時期が近づいてきた。チョコを切欠に元の関係に戻れればいいのだけど。  そうこう考えながら帰宅すると、チラシに混じってポストに妙な手紙が入っていた。  このご時世には大層珍しい封蝋の押された手紙で、宛名にこれまた妙に達筆な字で私の名が書かれていた。  私は自室に戻り、その手紙を恐る恐る開封する。中に書かれていたのは、宛名同様達筆ながらも随分と簡素な文章と、小さなプリントアウトだった。 「──今週の日曜日、指定した場所で待つ?」  首を傾げながらも、同封していたプリントアウトは、この辺りの地図だった。そして、馬鹿でもわかるようにデカデカと印がされていた。 …何だか胡散臭い。そういった感想が先に立つ。わざわざこっちの住所まで調べてこんなのを送ってこられる義理はない。  そう思って手紙を屑籠に丸めようとしたが、追伸とおぼしき一文に目が留まる。 「──キミの変容について話をしたい…?」  思い当たる節など、ひとつしかない。私は全速力のトラックの衝突でピンピンしていた。そんなの、奇跡の一言で片付く話じゃない。  その理由の解明に繋がるなら、多少の胡散臭さには目を瞑る。私は、自分の顔に映らない鏡を眺めながら、そう決心した。
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