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「愛してる」
何度も繰り返し口にした。
「愛してる」
何度も伝えてくれた。
「大好きだよ」
何度もふたりで交わした言葉。
ゆらゆらと揺れる意識の中で、あなたの声が木霊する。
ゆりかごに収まっていたとき、こんな感じだったのかなと、するすると体を丸めながら体制を変えながら、左手をゆるゆると握り目を閉じた。
そのまま眠りについてしまう予定だったのだけれど、フローリングの硬さが、ベッドの柔らかさを思い出させてくれた。お陰で、明日の朝はベッドの上で迎えられそうだ。
冷蔵庫から冷えた水を取り出す予定が、ちょうど切らしていて、水道水をグラスになみなみと注ぎ、氷を乱暴に入れる。水飛沫が飛んで、シンクに小さな水溜りが出来たのだけれど、気にせずそのまま一気に飲んだら、氷が鼻に当たり、冷たくて少し目が覚めた。
「手を〜...」
歌を歌おうとして、けれど歌おうと思って歌い出した歌の歌詞が思い出せなくて、涙が溢れそうになる。その場にうずくまり、そのまま溢れ出してきそうな涙を必死に抑えたいのに、思い出せない歌詞にますます追い詰められる。
まるで、何か大切なものを忘れて、それが何かを必死に思い出そうとしているときの感覚に似ている。
どうしても思い出したいのに、どうしても思い出せない。
忘れたくない大切なもののはずなのに、それが何なのか、思い出せない。
忘れたくーーー...
その苦しさに耐えられなかったようで、いつの間にか意識を失うように眠りについた。
そして気づいたら、窓から朝日が注ぎ込まれた部屋の片隅で、部活後の体育館に、ポツリと転がるバスケットボールのようになっていた。
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