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罠
日が暮れて、カーテンを閉める。
「日が落ちるの、早くなったわね」
夕食を配膳し、真崎が言った。
テーブルの上に白い封筒が見え、窓際に立つ少女に声をかける。
「ファンレター? すっかりアイドルね」
「....」
「どうかした」
反応が無かったことを不思議に思い、シャワーを済ませたパジャマ姿の背中を見つめる
仄は振り向くと 何でもない と呟いた。
「先生、服とかありがとう」
退院間近になり、自分の部屋の物を全て処分してしまっていた仄は本だけでなく自分の身に付けるもの、服から下着まで一切無かったため真崎が晶に声をかけ、自分も下着やらを買い込んできた。
「清水に請求するからいいのよ。さすがに
あいつに女性物の下着買ってこいってのは無理だろうし。...面白いけど」
珍しく口角を上げながら紙袋の中からカーディガンを取り出した。
「夜冷えるから使いなさい」
「ありがとう」
それを肩に掛け、頷いた。
「清水もそろそろ終わるだろうから、使わない分は持ってって貰いなさい」
返事をすると真崎はいつもの無表情に戻り、白衣のポッケに手を突っ込んだ。
「しっかり食べなさいね、やっと普通食になれたんだから」
配膳されたメニューを見る。
味噌汁、白米、煮物と和え物
ふと、信也さんの顔が浮かんだ。
「信也さんのご飯食べたいな..」
思わず呟くと真崎はドアを開けながら振り向いた。「退院したら食べれるわよ」
そう言って病室を後にした。
仄は静かにベットに腰を下ろすと夕食の盆の隣にひっそりと置かれた封筒に手を伸ばす。
裏を見る。隅に書かれた父親の名。
分かってる。これは父の字じゃない。
目を伏せる。
あの日の影が甦る
抱き締めてくれた腕 「生きろ」と言った声
倒れた体
分かってる。これは罠だ。
それでも仄は封筒から手放すことが出来ずに
封を切った。
◇ ◇ ◇
ドアをノックして病室を覗き込む。
配膳された食事が残されたままこの部屋の主を探す。
「仄?荷物持っていくぞ」
声をかけても返事が無かったので硯は辺りを見回しながら部屋へ入った。
ベットの上に乱雑に脱ぎ捨てられたパジャマ
ふいに胸騒ぎを覚えてそれを手に取る。
乾いた音が足元に落ち、それに手を伸ばした
白い封筒
「仙がやきもち妬くな」
呟いてそれを拾い上げた。
何気なく見た差出人の名前。
「...仄、どこにいる!」
部屋に轟く声。
硯は一目散に病室を飛び出した。
テーブルの上に置かれた夕食の盆にはメモがあった。
すぐに戻ります 心配しないで
仄が宛てた人影はそれには気づかず病院の外へまで走り出していた。
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