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闇夜。
真っ暗な道を肌寒い風と走り抜け、外灯のついた電信柱に手をつくと呼吸を整えた。
ずっとベットの上だったから体が思うように動かない。そんな距離でもないのに全身で息をつく。
「..ごめんなさい」
渇いた口から出た言葉。
左手で握った手紙をなお握り潰しながら仄は顔を上げた。
目の前に見えた公園の門。高い木々が生い繁るその公園は病院のすぐ裏手にあったもの。
入り口付近に外灯と自動販売機が見える。
そんなわけ無い。
大丈夫、遠くから確かめてすぐに戻ればいい
仄は物音を立てずに公園に近づくと物陰から暗くなった公園の中央を覗いた。
とちの木がカサカサと渇いた音を出す。
外灯に照らされたベンチには人影が座っていた。
迷いながらも、枯れ葉を運ぶ秋の夜風に引かれるように仄は足を踏み入れた。
黒い髪、白い背広、同じような背丈
その人の後ろ姿に釘付けになる
心の中ではこれ以上近づいちゃいけないって分かってる。でも、もしも...
視線の先の人物は 諦めたのか それともこちらの視線に気づいたのか立ち上がった。
ーーー お父さんの遺体って
出てきてないんだよね
振り向いた人影に仄は思わず呟いた。
「...父さん?」
影を被った男の顔はゆっくりと近づいて電灯の光が顔を映し出す。
背後で人の気配がした。
それでも振り向くことも出来ず仄は目の前の男から視線を外すこと無く、口許に当てられた布の鼻をつく薬品の匂いに瞼を下ろした。
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