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病院の真上に白い月が浮かぶ 風が黒く染まった雲を流した。 音もなく赤いランプが灯ったままロータリーに停まる。 硯は苛立ちを抑えるように階段から立ち上がり下りてきた警官に話を始めた真崎の後ろに立った。 いなくなった患者の特徴と状況、体の状態を話すと警官はメモを取りながら確認するように質問した。 「それで理由など思い当たることは」 「抜け出したんじゃない」 硯は声を荒げ、警官ににじり寄る。 「仄は父親の名前で(おび)き出されたんだ。早く見つけないと」 「清水落ち着けって」 真崎が今にも警官に掴みかかりそうな硯の腕を掴んだ。 「落ち着いていられるか!あの子は」 怒鳴り付けながら振り向くと頬に痺れるような痛みが走る。平手打ちした手を痛そうに振りながら真崎は言った。 「お前があわてふためいてどうにかなるのか 」 硯は瞼を片手で覆うと顔を背けた。 警官は言いづらそうに二人の顔を交互に見るとメモに視線を落として言った。 「しかし、自分の意思で出ていったとなると..誘拐扱いには..」 その言葉に真崎は即座に返した 「では捜索出来ないんですか?」 一瞬警官は眉をひそめたが最善を尽くすとだけ告げてパトカーに戻っていった。 悪い人ではないのは分かってる。 しかし事件扱い出来ないのであれば捜査はして貰えない。 もし、どこかに連れ去られていたら.. 悪い予感ばかりが頭をよぎって離れない。 「悪い、後頼む」 硯は真崎に告げ裏手の公園へ足先を向けた。 駆け出そうとして先程の警官が叫び、呼び止める。 「今、居場所が分かったとの報告が」 硯は無線を聞く警官に駆け寄るとパトカーの窓枠を掴んだ。無線に返答し、振り向いた警官はなんとも言えない表情で 「今、連れ去った犯人のホテルが分かったと、女性が連れ去られたのは確実で保護に 向かっていると..」 「それで、そのホテルは?」 息咳切って硯が言うが若い警官は視線をそらした。 「すみません、この件は本部で指揮を執るからと...このまま待機してください」 「待機って」 「大丈夫です。必ず無事に連れ戻します」 警官は言ってパトカーに乗り込んだ。 「皆さんは中で、何か分かり次第伝えにいきます」 真崎は軽く頭を下げ硯の腕を掴んだ。
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