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真崎は窓際に寄りかかると足元に視線を落とした。
「...君と一緒で頑固でね。
清水の前だといつも笑ってた。
死ぬ直前までにこにこしてたのよ..なのに
」
やるせなくて真崎は一度目を伏せ、肩を落とした。ベットに座る少女に母親と父親の面影を見る。
「死んでからも清水は螢子を生かし続けた。がん細胞が見つかる度切って、薬使って、全身に転移するまで。
借金までして..見ていられなかった」
仄は俯き、拳を握りしめた。
「馬鹿みたいでしょ、ずっと待ってたのよ。
いつ来るか分からないのに..
貴方のお父さんの言葉信じて」
「...ごめんなさい」
「君が謝ることじゃない」
真崎は仄に歩み寄り、身を屈めるとうっすらと涙を浮かべる少女の拳に手を置いた。
「ただ、分かって。自分の行動一つで他人の人生が壊れることもある」
仄は黙って頷いた。
「君の命は君だけのものじゃないってこと」
「...はい」
真崎は仄の頭を ぽん と叩くと立ち上がった。
「じゃあ、あとは清水の為にもご両親の為
にもしっかり前向いて生きなさい」
相変わらずの無表情。けれど言葉の温かさに仄は頷いた。真崎はもう一度頭を撫で、病室を出た。
入れ違いに女子高生が病室に入っていくのを見届けるとロビーへと足を向ける。
「...おや」
見覚えのある長身の青年にふと足を止めた。
「君は会いに行かないの?」
声をかけるとロビーの吹き抜けの手すりに寄りかかり立っている青年は ちらり と真崎を見て軽く頭を下げた。
「ただの送迎」
「ふーん..」
真崎は隣に立ち止まり、白衣からガムを取り出すと 食べる? と信也に差し出した。
信也が首を振り断ると、真崎は一粒口に入れ考え込むように吹き抜けの高い天井を仰いだ
「...あのさ、君にとってあの子ってなんなわけ?」
「....」
信也は無言でさもめんどくさそうに真崎を見る。
「彼氏君に気を使ってるの?」
大きな溜め息。
「...俺には店の奴らが家族なんだよ。」
「そう」
「それだけだ」
全くどいつもこいつも と言いたげに信也は溜め息をつく。面倒に思ったのか寄りかかっていた手すりから腰を離すと真崎に背を向けた。歩き出す背中に真崎はふと気になったことをそれに投げ掛けた。
「君、信ちゃんだよね」
ぴたりと信也の足が止まる。
肩越しに振り向くと怪訝な面持ちで真崎を見つめた。
「昔 救命にいてね。さっきの女の子が信ちゃんって呼んでたの聞いて思い出したのよ。
君、見覚えあるなぁって」
「....」
「お母さん元気?」
信也は視線を逸らすと さあ とどこ行く宛もない答えを呟いた。
真崎が口を開くのを前に背中を向け、信也はエレベーターに向かう。
「そっか...」
小さく呟くと真崎も背を向け、その場をあとにした。
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