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友の話
病室では仄に次から次へとお菓子を出しながら麻実が叫んだ。
「それって、プロポーズじゃない?!」
声の大きさに驚きながら仄は猫のぬいぐるみを顔の前に身をすくめた。
病室に入るなり、烈火のごとく怒りまくる麻実を宥めながら 仙寺を連れてくるために麻実が急遽 京都支店の店長にお願いし運転手を手配してくれたこと そのお礼を言い、ようやく落ち着いたと思い仙寺にもこう怒られたのだと話していたところだった。
「...なんでそうなる」
仄が恐る恐るぬいぐるみを下ろし、麻実を見つめると麻実は丸椅子に腰を落ち着かせ
お土産のお菓子を一つ口に入れながら言った。
「ずっと側にいろってそういうことでしょ」
「..そう..なの?」
困惑しながら言う仄に麻実は 他に何がある
と逆に聞き返しそうだった。
「...勢いとか」
「仙ちゃんって勢いで告白するタイプなの?
」
「...ノリ?」
「あんたねぇ」
呆れたように麻実が溜め息をつく。
よくよく考えてみるとそうなのかもしれないと仄は頬を赤くした。
「...でも、まだ17だし」
「18で成人よ。今は選挙だって投票できるし、運転も出来る時代よ」
「....」
仄は視線を下ろすと黙って頷いた。
視線の先の猫は慰めるように仄を見上げている。
「全く、仄はそういうの鈍いというか、疎いというか..」
「...すみません」
信也にも前に同じことを言われたな..
と反省する。
麻実は呆れた表情でお菓子を2・3個口に放ると片目だけを瞑り、仄に視線を向ける。
「で、どうすんの」
「...どうするも何も」
困り果て仄は一度首元に手を当てる。
指先にあたる小石がきらりと光りを放つ
仙寺がくれたネックレス。
「それだって仙ちゃんがくれたんでしょ?」
「...指輪の代わりだって、ずっと..
着けてろって」
顔を茹で蛸のように湯気を上げそうな勢いで真っ赤に染めるとどんどん視線が下がっていく仄に麻実は大きくため息をついた。
「なんで今まで気づかないかな」
「...」
「半年ちょっとで社会人なのよ。
将来考えてても可笑しくないでしょ」
「...すみません」
しまいに仄の頭がベットに着きそうになって麻実はそれ以上聞くのをやめた。
「...信也さんは?」
ふと、話題を変えようとしたのか仄が顔を上げる。
「あれ、来てないの?」
「...。
手術前に来て..私酷いことしちゃって」
思わず叩いてしまった右手を見つめる。
麻実は敢えて そっか とだけ呟いた。
「お礼も、お詫びも言えずじまいで」
「....。
退院したら言いに行ったらいいよ。
信ちゃんあんまり気にしてないと思うし」
「...うん」
仄は呟くと麻実を見つめた。
箱に入っていた鹿のイラストが入ったクッキーを半分程食べ終えると怒りも収まったようでにっこりと笑顔を見せる。
本当に言葉で何度言っても言い足りない。
「本当にごめん」
仄が言うと麻実は膝の上に置いた箱を放り投げ勢い良く仄の首根っこに抱きついた。
「次やったら承知しないから」
「うん、ごめん」
強く首元を抱き締める麻実の背中を擦る。
「...ありがとう」
小さく耳元で告げると麻実は頷いた。
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