将来の話

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将来の話

「そういや映画やるって言ってたな」 リモコンを弄る。窓際に備え付けられたTV画面にはアニメの画が映し出された。 前に見たことがないと言っていた少女にそれを向ける。 「ジブリ。これでも見てろ」 祖父の家に行く道すがら祠が言っていた も○○け姫のタイトルに興味津々にTVの真ん前に移動すると壁にもたれ掛かった。 「痛むか?」 「ちょっと..薬飲んだから」 画面を見ながら答えると仙寺はTVの位置を 変え仄の頭を布団の上に押し付ける。 「我慢しない」 「...はい」 横になった仄のすぐ隣にテーブルをつけると自分もベットに腰かけ荷物の中からノートと教科書を取り出した。 「..メガネ」 ふと仙寺を見て仄が呟く。 「するんだ」 「勉強の時だけな。直、課題だから」 真面目な顔でノートを書いている仙寺に思わず体を向ける。 「お前はTVでも見てろ」 「..うん」 「.....だから」 仄の視線に仙寺が振り向く。 見慣れないメガネ姿にじっと見つめると 「集中できねえだろ」 苦笑いする仙寺に口許が緩む。 「ごめん」 「....」 「仙は将来何になるの?」 「さあな、てきとーに就職して飯が食えりゃそれでいい。」 「ふーん..」 仄はノートに向き直った仙寺に猫のぬいぐるみを向けて抱くとじっと見つめた。 「お前は?」 「ん?」 「ずっとあそこで働くのか?」 「....」 正直全く考えてなかったので返答に困る。 レオンに言われて 通訳 と言う仕事も考えた。成り行きで働き出したが料理に興味が出て、平政で働いて、毎日楽しくて。 でもそれは今の仕事がしたいわけじゃなく...気づいてしまった。 ただ、私は信也(あの人)みたいになりたかっただけなんだと。 「案外ピアノの先生とか出来んじゃね?」 仙寺の言葉に顔を上げる。 ノートを書く手を止め、こちらを見ながら仙寺は言う。 「そしたら家で仕事出来るし」 「...家で」 「そ。通勤無いと楽だぞ。難しいことは沢山あるだろうが、定年も無いしな」 「...うーん」 仰向けになり猫を掲げ天井を見上げる。 少しの間唸りながらそれを見ていると仙寺は溜め息をついた。 「何?」 きょとん と仙寺の顔を見ると首を振った。 「別に」 「...何か怒ってる?」 「怒ってねえよ。ただ..」 「ただ?」 体を起こして仄は膝をつき仙寺の前に姿勢を正す。仙寺はノートの上にシャーペンを転がすと頬杖をついた。 「俺も十分自分勝手だよな」 「は?」 訳が分からず首を傾げる仄を見つめて仙寺は言った。 「お前が家にいねえと落ち着かねえんだよ」
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