1話 契約

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 僕は自他共に認める一般人だ。行列があったら迷わず並ぶし、服だって流行りのものを着る。そんな人間だ。今だって半袖の制服を着て、沢山の生徒に囲まれて歩いている。ここに居る人は全員、花山高校(はなやまこうこう)の生徒だ。勿論僕も。  しかし、こんな僕にも悩みはある。好きな人がいるのだ。しかも初恋の人。名前は朝比奈陽菜(あさひなひな)さん。こんな僕の幼馴染でもある。昔は名前で呼び合っていたのに今では苗字で呼び合っている。同級生なのに……向こうも緊張しているのだろうか、ならば望みはある!希望を持って行こう。 「はあー」  ついため息を吐いてしまう。  くどいようだがもう一度言わせてもらう、僕は自他共に認める一般人だ。 (それなのに……) 「もうすぐ学校に着くな。ニヒヒッ!」  不気味な笑い声をあげるが僕の耳元で小さく囁く(ささやく)く。化け物と言っているが、実際はマスコットのような化け物なのだ。あまりにも化け物というには怖くない。 「はあー」 「そんなため息を吐くなよ、雄太(ゆうた)」 「君と僕って名前で呼び合う程の仲だっけ?」 「へいへい、鴇波雄太(ときなみゆうた)さんっと、これでいいかい?」 「どうでもいいよ……」  もう一度叫びたい。  何故僕はこんな奴に絡まれないといけないのか。  理由は僕だって分からない。昨日の朝、起きたら目の前にコイツが居たのだ。  その日以来、僕は変な夢を見るようになった。 「はあー」 「どうした鴇波雄太?」 「たのむから、学校では話しかけないでくれよ」 「ニヒヒッ。分かったよ鴇波雄太さん」  もう一つ分かっている事がある。コイツは他の人には見えないらしい。おかげで親に寝ぼけているぞ、と馬鹿にされたくらいだ。  分かっているのはこのくらいだろうか。  しかし、何故僕の元に来たんだ?  分からない、コイツの考えている事が何一つ理解できない。だが、僕は考えない事にした。荒馬の轡は前から(あらうまのくつわはまえから)、と昔の人は言っていたらしいが僕はその真逆を行く。困難な問題は無視していく。伊達に事なかれ主義を貫いてきたわけじゃない。このくらいの問題は慣れっこだ。コイツがどれほどの超常的な力を持っていようが僕には関係ない。僕はただ、コイツのことを考えないように日常を過ごすまでだ。 「うっ」  ぶるっと身震いがした。  膀胱が大変な状況になっている。早くトイレに行こう。  しかし……コイツどこまでも付いてくるな。まあ気にしないが。  とりあえず僕は、遅刻しない事だけを考えよう。  そうして僕は、近くのコンビニのトイレを借りた。 「『まったく』はこっちのセリフだぜ、雄太」 と化け物は呟く。 (と雄太に言うべきか、言わないべきか)  ちと考えてみるか。
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