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僕は自他共に認める一般人だ。行列があったら迷わず並ぶし、服だって流行りのものを着る。そんな人間だ。今だって半袖の制服を着て、沢山の生徒に囲まれて歩いている。ここに居る人は全員、花山高校の生徒だ。勿論僕も。
しかし、こんな僕にも悩みはある。好きな人がいるのだ。しかも初恋の人。名前は朝比奈陽菜さん。こんな僕の幼馴染でもある。昔は名前で呼び合っていたのに今では苗字で呼び合っている。同級生なのに……向こうも緊張しているのだろうか、ならば望みはある!希望を持って行こう。
「はあー」
ついため息を吐いてしまう。
くどいようだがもう一度言わせてもらう、僕は自他共に認める一般人だ。
(それなのに……)
「もうすぐ学校に着くな。ニヒヒッ!」
不気味な笑い声をあげる宙に浮いている小さな化け物が僕の耳元で小さく囁くく。化け物と言っているが、実際はマスコットのような化け物なのだ。あまりにも化け物というには怖くない。
「はあー」
「そんなため息を吐くなよ、雄太」
「君と僕って名前で呼び合う程の仲だっけ?」
「へいへい、鴇波雄太さんっと、これでいいかい?」
「どうでもいいよ……」
もう一度叫びたい。
何故僕はこんな奴に絡まれないといけないのか。
理由は僕だって分からない。昨日の朝、起きたら目の前にコイツが居たのだ。
その日以来、僕は変な夢を見るようになった。
「はあー」
「どうした鴇波雄太?」
「たのむから、学校では話しかけないでくれよ」
「ニヒヒッ。分かったよ鴇波雄太さん」
もう一つ分かっている事がある。コイツは他の人には見えないらしい。おかげで親に寝ぼけているぞ、と馬鹿にされたくらいだ。
分かっているのはこのくらいだろうか。
しかし、何故僕の元に来たんだ?
分からない、コイツの考えている事が何一つ理解できない。だが、僕は考えない事にした。荒馬の轡は前から、と昔の人は言っていたらしいが僕はその真逆を行く。困難な問題は無視していく。伊達に事なかれ主義を貫いてきたわけじゃない。このくらいの問題は慣れっこだ。コイツがどれほどの超常的な力を持っていようが僕には関係ない。僕はただ、コイツのことを考えないように日常を過ごすまでだ。
「うっ」
ぶるっと身震いがした。
膀胱が大変な状況になっている。早くトイレに行こう。
しかし……コイツどこまでも付いてくるな。まあ気にしないが。
とりあえず僕は、遅刻しない事だけを考えよう。
そうして僕は、近くのコンビニのトイレを借りた。
「『まったく』はこっちのセリフだぜ、雄太」
と化け物は呟く。
(尾行されていると雄太に言うべきか、言わないべきか)
ちと考えてみるか。
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