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2話 恋人
「絶対、迎えに行くから!私との約束だよ!」
と女は言う。
女は涙を流す。
そして、僕は……
「——鴇波!鴇波!!」
「はっ!」
ここは……何処だ?
「鴇波、俺の授業で居眠りとは——随分と勇気があるようだな」
「え?」
まさか……これは。
「たく、お前は後で職員室に来い!説教をしてやる」
ですよねー。
僕の名前は鴇波雄太。自他共に認める一般人である。特筆すべき才能など一つもない。
なのに……なのに!
「はははっ!ドンマイ、雄太!」
「ドンマイじゃないだろー、真面目が僕の唯一の取り柄だったのに……」
「はははっ!やべー笑いが止まんねー」
僕の横で笑っているこの男は蛸峰波瀾という名前だ。見ての通り、人の不幸が大好物なクソ野郎だ。親友の僕が寝ていたとしても起こしてくれない、何のために隣の席にいるんだ!と言いたいくらいだ。
「おっと、こうしちゃあいられねー」
「何かあるの?」
「おうよ!雄太!」
「ッ!ビックリするから急に大声だすなよ……」
「はいはい、そんな事は置いておいて」
置いておいて大丈夫なのだろうか、先程からクラスメイトがこちらを凝視している。
こちらとしてはもの凄く恥ずかしいのだが……
「でさ、初めにお前に言っておきたくてさ——実は」
ゴクッと雄太は息を呑んだ。
「実は俺に恋人ができたのだぁ!はーっはっはっはぁー!!凄いだろ、羨ましいだろ!」
クッ!決して口に出せないが、羨ましい。心底羨ましいと感じる。それどころか憎たらしいとまで感じてしまう。
「ニヒヒッ。抜け駆けされたなぁー鴇波雄太」
宙に浮いているエクサバトーが微笑しながらそう言ったが、僕は無視する事にした。
コイツは僕以外には見えないし、この判断は妥当だろう。決してコイツの煽りに屈したわけではない。
「でさ、どんな人なの?可愛いの?」
と雄太が言った。
「随分とがっつくなぁ、そんなに気になるのか?」
「気になる!」
「素直だなぁー。雄太、そんなお前に朗報だ」
「ほうほう」
「もうすぐ俺の彼女が迎えに——」
ガラガラと教室の扉が開かれる。
「あの……波瀾君居ますか……?」
(可愛いぃ!何だあの子!?)
……って今なんて言った?
僕の聞き間違いでは無ければ……
「まさか!?」
「そうだぜ、雄太!」
と波瀾が言った。しかも、ガッツポーズをしながら。
(コイツ!此れ見よがしにガッツポーズを見せびらかしに来やがって!)
許すまじ、許すまじぃー!
「あっ!波瀾君……!こっちこっち……!」
「おう!今行くぜぇ!」
……なんともまあ、羨ましい。
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