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3話 下校
美味しいラーメンを食べた後はいつも通りの日常を送った。
「じゃあお前ら!気をつけて帰れよ」
僕達の教師は学校を終える定型分を並べて教室を出て行った。
(帰るか)
教室にはもう波瀾居なくなっていた。
「一人で帰る事になったな。ニヒヒッ」
エクサバトーは皮肉めいた事を僕に伝えた。しかし、いつも一人で帰宅している僕にとってはノーダメージだ。
学校という事もあって、僕はエクサバトーを無視する事にした。
僕は階段を降りる。
いつもと変わらない日常。こうも同じ事を繰り返していると頭がおかしくなりそうだ。
しかし今日は違った。今日は朝比奈陽菜さんが前を歩いている。僕の初恋の人にして大切な幼馴染でもある。
いっちょ声でも掛けようかと思ったが、どうしてもあのトラウマを思い出してしまう。
中学の時、朝比奈陽菜さんの母が死んだ。僕はどうにか落ち込んでいる陽菜さんを励まそうとしたが、呆気なく拒絶された。その日から陽菜さんの印象が変わった。前まで活発で屈託のない子だったが、今は人付き合いをあまりしない大人しい子になった。
そんな朝比奈陽菜さんが今、目の前を歩いている。
本音を言えば話しかけたい。だが、陽菜さんに拒絶されるのが怖い。
その時だった。隣で浮いていたエクサバトーがこう言った。
「鴇波雄太、逃げてばかりじゃあ何も変わらないぜ」
その声を聞いた僕は——分かってるよ……——と呟いた。
「鴇波雄太、契約しねぇか?」
雄太はそのセリフを聞いた。
「何度目だよ。いつも言ってるだろ、契約はしない!」
と雄太が言った。
「僕一人でなんとかする!」
雄太はそう言って朝比奈陽菜に声を掛けた。
「陽菜ちゃ——朝比奈さん、今から帰るところ?」
(僕は一体何を言っているんだ!そんなの見れば分かるだろ)
「あの……朝比奈さん」
朝比奈陽菜は静かに歩いた。
そして、ついに口を開いた。
「陽菜でいいよ。前みたいに陽菜って呼んで——雄太君」
「ッ!……うん。分かった」
雄太は言葉に出来ない嬉しさを噛み締める。
「じゃ、じゃあさ、今日一緒に帰らない?」
「うん、いいよ」
と陽菜は笑顔で言った。
(少しずつだけど……陽菜との距離が縮まった気がする)
「ニヒヒッ。青春だねー」
僕は陽菜と一緒に居るからという理由でエクサバトーの事を無視した——いや、今回だけは……コイツのおかげだから。
「ありがとう、エクサバトー」
「礼にはおよばねぇよ」
僕は微笑んだ。
「……雄太君、誰と喋っているの?」
「え?」
(……は!!!)
し、しまったぁァァァァァ……陽菜はこの事を知らないのだったぁァァァァァ!!!どうやって誤魔化せばいい……考えろ、考えろ雄太!!!
僕の脳細胞全てを消費して答えを導き出せ!!
……見えた!
「見えない怪物とさ!」
そして、雄太はキメ顔を披露した。
「……そうなんだ。雄太君は凄いね」
「だろ!」
「うん!」
「……素直に褒められると恥ずかしいな。まあいいか、帰ろう陽菜」
陽菜はその言葉を聞くと動きが止まった。陽菜は思い出していたのだ。中学の頃、一緒に下校していたあの日の事を。
「うん。帰ろう!」
雄太の口角が上がった。
「ああ」
雄太は中学生の頃を思い出す。
「久しぶりだな、こうやって帰るの……」
そうして、二人は一緒に通学路を歩いた。
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