はれやかに、逃亡

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暗闇の中を進む。 目が利かないまま暗闇に向かって手を伸ばす。 触れるのがもう何度目か分からない感触に、ぐっと手のひらにそれを握りしめて下に引けば、チカチカと蛍光灯が瞬いて漸く暗闇に隙間ができる。 洗って伏せてあったマグカップにインスタントのコーヒーを入れた。不要になったプラスチックゴミを捨てた俺の指はそのまま方向転換する。 ガスコンロのスイッチを押せば、カチカチ、と細かく金属が鳴いて炎が灯る。揺れる橙色が酸素を取り込んでほの青く染まる。何とも言えないグラデーションに、美しいな、と思った。 じっと見続けていれば、すぐに上に乗ったやかんからシューッと蒸気が噴き出す。 沸騰する寸前で火を止めて、先ほど用意したマグカップにお湯を注ぐ。透明な液体がやかんの口から流れ出して、黒く染まる。 苦い、苦い色。 俺は一体、いつからブラックコーヒーを飲み始めたのだったか。 高校生から使っているこのマグカップには、もうこの色が染みついている。 いくら漂白したって、こびりついて消えてはくれない。
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