はれやかに、逃亡

4/24
11人が本棚に入れています
本棚に追加
/24ページ
「私じゃ駄目だったの……ねぇ、リキ。私は、ちゃんと、貴方に時間をかけてきたわよね?」 「ッ、おかあ、さ」 「全部無駄だったってこと?」 突然壊れたように笑いだした母親が怖くなって逃げだした。バタン、と自分の部屋の扉を閉めて布団に潜り込んだ。 震えが止まらなかった。 次の日、母親だけがこの家から消えていた。 彼女はずっと父親だけを見つめていた。父親に傍に居て欲しいが為に俺を「いい子」に育て上げた。 ねぇ、じゃあさ。 ――……用済みになった「いい子」の俺は何処へ消えたらいいの? 要らない子。いなくなっても誰も気にしない。 その思いは、理科と社会という教科が増えても、上履きが小さくなっても、制服に初めて腕を通しても、決して消えてはくれなかった。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!