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回れ右して校舎に戻ろうとしたけど、首根っこをつかまれて強引に振り向かされる。
「こら、逃げんな」
「いやあの、忘れ物」
友達は薄情なことに、僕を置いてさっさと帰ってしまった。
「嘘つけ」
はい、まったくの嘘です。せめてもの抵抗で、上目遣いに睨んでみる。しかしそんなものが通用するわけもなく。
「往生際が悪すぎるぞ。観念しろ」
どこの時代劇だ。玲次は僕の手首をつかんで歩き出す。
「…玲次、僕、お腹痛いなぁ…」
バレるだろうなと思いつつ、言ってみる。
「ダウト」
「やっぱり…」
「幼稚園児か」
玲次の大きな歩幅に引きずられるようにして、駅まで引っ張っていかれる。タイミングよく、電車が来た。
「俺の学校から、お前の学校まで何駅あると思ってんだ?」
普段は感謝してますって。いつも、家とは逆方向のうちの学校まで、電車代使って迎えに来てくれるんだから。でも、今日だけはほんっとに嬉しくない。
「わかってるよ。でも」
「何だよ、文句あんのか」
「…金返してよ。ほら、保険証」
鞄から保険証を出し、ひらひらさせて見せる。玲次は一瞥したっきり、知らん顔。
「返してってば」
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