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「俺が払う。返したらそれ持って逃げるだろ」
「どうせ逃がしてくれないんだろ」
つかまれたままの手首に、周囲の視線を感じる。
「手、離してよ。恥ずかしい」
「逃げるだろ」
「5万もつかまれてて、逃げられないよ」
玲次はそれもそうだと頷き、僕の手から保険証まで取り上げる。
「これで安心だ」
手首は自由になったものの、確かにこれでは逃げられない。玲次はポケットに僕の保険証をねじ込み、にやっと笑う。
「予約もしといてやった」
タチの悪い冗談だと思いたい。けれど、玲次は変なとこで用意周到だ。
この辺で一番の繁華街の駅で降りて、歩くこと数分。コンタクト専門の眼科があった。
「…玲次、マジ?」
「マジ。もう予約時間だから、さっさと入れ」
「やっぱ嫌だよ。目なんか悪くても生きていける」
「崇純さんに注意されたんだろ」
僕が崇純さんに逆らえないの知ってて、「崇純さん」に力を入れる。
「今後気を付ける! だからいいじゃん」
「痛いわけねぇし」
「目の中に変なもの入れて平気なわけが」
「変じゃねぇよ。歯医者だったら同情してやるけど、眼科だからな」
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