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「ヒロさんたち怒ってるぞ、きっと」
「龍樹…」
「もう20分も遅れてんだぞ。行こ!」
不満の塊のとなった玲次の手を引っ張って、中に入る。玲次が後ろで何かぶつぶつ言っているのが聞こえる。
「玲次」
仕方なく、ドアの手前の角で立ち止まる。中からベースとドラムだけが聞こえてくる。二人で遊んでいるのは、デランジェのララバイだ。
振り返らずに、玲次に手招きする。僕の肩に、顎が乗っけられる。餌を待ってる犬みたい。
「…思ったより、いい男じゃん」
玲次が笑顔になったのが、何となくわかる。僕は照れてしまって、振り向けない。
言ってしまったはいいけど、どうしようかなってちょっと考える。顔、見られない。
ふいに、首筋に玲次の唇を感じた。ぞくっとする。
「誰か来たらヤバいだろ」
来ないのなんか、僕もわかってる。玲次は答えずに、そのままじっとしている。
頭の中で、本物のデランジェのプレイが重なって聞こえる。明るいラブソング。ゆっくりと深呼吸をして、握っていた玲次の手を離す。
同時に、玲次の唇も離れていく。
「今日はうち帰るのか? 土曜日だけど」
「はい残念。コンタクトのケース持って来てないよ」
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