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「良かった? 何が……」
「ソウくんも私たちと何も変わらないんだってわかって。
私たちと同じように、悩んだり、迷いながらこの仕事をしているんだって」
水月は膝の上で重ねた手を握りしめる。
「ソウくんって、なんでも出来て、なんでも知ってるから、どこか遠い存在に思えていたんだよね。
でもそうじゃなかった。ソウくんも私たちと同じだったんだね」
「水月……」
颯真は目を大きく見開いた。まさか、水月にそう思われていたとは思っていなかった。
「それにね。私も誰かを喜ばせるのが好きなんだ。それに気づかせてくれたのはソウくんなんだよ」
「俺?」
「夏にあった野外ライブでファンの前で歌った時に気づいたんだ。私たちがライブを楽しみながら演じれば、ファンも喜んでくれる。そんな喜んでいるファンを見るのが好きなんだって」
顔にかかる髪を払いながら、「だから、私ね」と水月は続ける。
「光の代わりとはいえ、この仕事をやって良かったと思ってる。自分でさえ気付いていなかった自分自身に気付けて。ソウくんとも出会えて。本当に良かったと思ってる……。これは全部、ソウくんのおかげ。ソウくん、本当にありがとう」
水月の「ありがとう」が胸に響く。
胸がいっぱいになって言葉に詰まっていると、「ソウくん?」と水月が不思議そうな顔をする。
「こっちこそ、ありがとう。水月」
ーーこんな俺でも、いいと言ってくれて。
水月と一緒に居られるのは、光が戻ってくるまで。
それがどれくらい続くのかはわからない。
だからこそ、水月と一緒に仕事を出来る時間を大切にしたかった。
それは、これからも変わらないだろう。
「……水月、ごめん。やっぱり、今だけ甘えさせて」
「え……?」と戸惑う水月の右肩に、颯真は頭を寄りかからせる。
「ソウくん?」
「今だけだから。今だけ、甘えさせて」
小声で呟いた颯真に、水月は穏やかに微笑みながら口を開く。
「今だけじゃなくていいよ。これからも、ずっと」
「……うん。じゃあ、たまに甘えさせて」
そうして、颯真は目を閉じる。
こんなに安心して甘えられたのは、いったいいつ以来だろうと考えながら。
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