秋の日に

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「もう行かなきゃ。また今度誘ってね!」 「あ、うん。じゃあね。試験お疲れ様〜」 「お疲れ様〜」 ストレートの黒髪を靡かせながら、水月は急ぎ足で学生用ロッカーに向かう。 ロッカーから不釣り合いな黒色のリュックサックを取り出すと、脇目も振らずに正門に向かう。 正門前に立つ警備員に会釈をしながら、正門を出ると、右にずっと歩く。 すると、大学が所有している送迎用駐車場が見えてくる。 何台もの車が停まる小さな駐車場の中に入ると、運転席にサングラス姿の男子が座る目的の車を見つける。 初心者マークをつけた黒塗りの車に近くと、運転席でスマートフォンをいじっていたサングラス姿の男子も気づく。 後部座席のロックを解除すると、水月は中に滑り込むように乗ったのだった。 「遅くなってごめんね」 「大丈夫。さっき着いたばかりだから。で。試験お疲れ様。今日で最後だったよね?」 「うん。それより、いつも迎えに来なくていいのに。事務所で落ち合えばいいんじゃない?」 「ドライブもしたかったからついでだよ」 「それでも……。ソウ君の大学なら、ここに迎えに来るより、直接事務所に行った方が近いでしょ? この大学の間くらいに建っているし」 水月が通う大学は県北、ソウこと颯真(そうま)が通う大学は県南よりにあった。 対して、二人が所属する事務所は県の中心部にある。 水月が通う大学よりも、颯真が通う大学の方が交通が不便な事と、颯真の大学自体が車通学を許可しているので、颯真は大学入学と同時に自動車学校に通い始め、ようやく運転免許証を取得したのだった。 「そうかもしれないけどさ。でも、親父から貰った車がもったいないだろう。大学と事務所と自宅の往復だけだと」 事務所との約束で、颯真が車を使っていいのは学校と事務所と自宅の往復だけ。 新進気鋭の若手アイドルが、交通事故を起こさない為の事務所からの指示であった。 「でも、事務所の指示には従わないと……」 「はいはい、と」 颯真は左右を確認してからゆっくりと車を出す。 大学前の大きな道路に出て、しばらくすると「もういいんじゃない」と声を掛けてくる。 「そうだね」 水月は手を伸ばすと、髪を引っ張る。 すると、胸近くまである黒髪がズレて、下から同じ色の短髪が出てきたのだった。 「いつも思ってたけど、夏場は大変じゃなかった?」 「大変だったよ。ウィッグの中が蒸せて暑いし、汗を掻いて痒かったし」 「大変だね。光の振りをするのも」 信号で止まると、サングラスを外しながら後ろを向く。 「そうじゃなきゃ、もう少し女の子らしい服装や化粧も出来るのに」 「そうだね……って、それより前を向いてよ。ソウ君」 「はいはい」
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