秋の日に

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オーディションをやり直すにも、時間だけでなく広告や会場代などの莫大な費用がかかってしまう、それならその費用は光の家族に請求すればいい。 そう事務所が相談していた時に、光の代役として名乗りを上げたのが、光の双子の妹である水月であった。 身長や声は違うが、双子だけあって雰囲気も似ており、顔立ちも似ている。 そんな水月に光が戻るまで、光の振りをするように事務所は指示した。 光と同じユニットで、事務所が所有するマンションに同居する颯真と、事務所の社長、マネージャーといった一部の関係者以外には、秘密にするという条件で。 同じユニットで、同居人といっても、やはり他人である颯真には、なかなか光の正体を打ち明けられなかったが、仕事を通じて信頼関係を育み、打ち明ける事が出来た。 夏にあった遊園地の野外ステージでの音楽番組の生中継を始めとするいくつかの仕事を得て、ユニットの形らしくはなってきた。 事務所の駐車場に車を入れると、いつものように颯真は先に車から降りて、辺りを警戒する。 事務所の駐車場とはいえ、いつマスコミが潜んでいるか油断は出来ない。 車内の後部座席では、「光」になる為に水月が着替えをしている。 水月の着替えを覗かない配慮と、常にネタを探して事務所周辺を彷徨いているマスコミを警戒して、颯真は自ら見張りを買って出るようにしていた。 「ソウくん」 内側から窓ガラスを軽く叩いて、水月が合図を出す。 後部座席のドアを開けると、化粧を落として、女子らしいデザインの洋服を脱いで、男子ぽいシンプルなデザインの洋服に着替え、男子に人気のブランドのリュックを背負った水月が出てくる。 「もういいの?」 「今日は洋服の下に着ていたから」 水月は笑うと、さっきまで着ていた洋服をトートバッグの中に押し込んで、後部座席の下に隠すように置く。 男子に見えなくもない快活な笑顔。 でも、正体を知っている颯真の目には、ボーイッシュな女子が笑っているようにしか見えなかった。 助手席から自分の荷物が入ったトートバッグを持つと、車をロックする。 「今日は雑誌のインタビューだっけ?」 颯真の隣を歩きながら、水月が尋ねる。 「そう。写真撮影は後日でいいって。 外で撮りたいから、学校が休みの日の午前中に撮るからって」
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