秋の日に

5/5
前へ
/8ページ
次へ
今回の撮影は、エンターテインメント系雑誌のインタビューだ。 今年、五十鈴芸能プロダクションからデビューした新進気鋭のユニットの特集を組みたいとの依頼があったらしい。 写真部分は、後日、天気の良い日に郊外の公園で撮るとの話だった。 冬には白鳥が多く飛来する湖がある事で有名な公園で、水月も小さい頃に光たち家族と一緒に白鳥を見に行った覚えがあった。 「俺たちはまだ学生だから、学業優先。留年したら、それこそ問題だから」 水月ほどではないが、颯真も同時期に試験があった。 学業を優先する事を条件に活動しているので、試験期間中は仕事をキープしていた。 その分、試験が終わると、怒涛の勢いでキープしていた仕事が入るが。 「学業優先なのは助かるかな。ゆっくり勉強出来るから」 「でも、その分、仕事が大変だけど」 二人は顔を見合わせると笑い合う。 出会った頃は、光の正体を話せない水月に避けられていた。 それが、お互いにこんな風に笑い会える日がくるとは思わなかった。 いつまでもこんな日が続いて欲しいと、颯真は密かに考えるようになったのだった。 インタビューは問題なく進んだ。 会議室にやってきた雑誌の担当者は、若い女性だったが、二人の出会いや、夏にあった音楽番組でのライブ、新曲といった当たり障りのない質問だけをしてくる。 このまま終わるかと思ったら、「すみません。質問が一つ抜けていました!」と、最初の質問に戻る。 「おふたりがオーディションを受けたきっかけを聞き忘れていました! おふたりはどうしてアイドルになりたいと思ったんですか?」 先に答えたのは、水月だった。 「自分の実力を試してみたいと思ったからです。自分がどれほどの力を持っているのか」 光ならそう答えるだろうという、模範的な回答を水月は返す。 「なるほど。出島さんは?」 「おれは……」 颯真の頭の中に、子役として活動していたかつての自分が出てくる。 テレビに、雑誌に、広告に、とあちこちで仕事をする自分と。 陰から心ない言葉をかけてくる者たちを。 「ソウ?」 水月に声を掛けられて、ハッと今がインタビュー中だったのを思い出す。 担当者に「すみません」と謝ると、すうっと息を吸ってから口を開く。 「おれも光と同じです。自分の実力を試してみたいと思って、オーディションを受けました」 「そうですか〜。それでは、先程の新曲に関する質問に戻ります」と、颯真の様子に気付いていない担当者は、また新曲について尋ねてくる。 それからは、何事もなく颯真は全ての質問に答えた。 けれども、そんな颯真に訝しむような視線を向けてくる水月にだけは、気づけなかったのだった。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加