この仕事を始めた本当の理由は

1/3
前へ
/8ページ
次へ

この仕事を始めた本当の理由は

それから、インタビューを終えると、マネージャーと今後のスケジュールについて確認する。 試験期間中にキープしていた仕事を確認して、メールやファックスで回答出来るような仕事ーー小さなインタビュー記事の回答だった。を全て済ませてから事務所を出る。 水月を乗せて駐車場から出ると、外はすっかり暗くなっていた。 「せっかくだから、どこかで夕食を食べて帰ろうか」 「そうだね……」 二人共に特に食べたいものがなかったので、近くのファミリーレストランに入る。 仕事帰りのサラリーマンや勉強する学生同士で混む中で、二人は目立たないように、手短に夕食を済ませる。 長居をせず、また他に寄り道もしないで、そのままマンションに戻って来たのだった。 「帰ってきたね」 部屋に戻って来てリビングの電気を点けると、カーテンを閉める。 「そうだね……」 同じように水月もカバンを置くと、「あのさ、ソウくん」と声を掛けてくる。 「ソウくん……は、本当はどうしてアイドルになったの?」 部屋に戻ろうとした颯真は、その言葉に足を止める。 「水月?」 「今日のインタビュー、なんだかソウくんらしくなかった。この質問をされてから」 心配そうに見つめてくる水月に、「まいったな」と諦めたように颯真は肩を落とす。 「そんなにおかしかった、俺?」 「そこまでじゃないけど……少し」 ソファーに座った颯真の側にやって来ると、水月は困ったように小さく笑った。 「ソウくんなら、もっとちゃんとした理由を言うはずだから」 「そうだね。俺らしくなかったかも」 隣に座るように言うと、水月はそっと座る。 「水月は、俺がアイドルになる前、子役をしてたって知ってる?」 「うん。子役として活躍してて、高校生になる時に辞めたんだよね。それで、今回のオーディションでアイドルとして戻ってきた」 「そう。俳優の親父や叔父さんーー今の事務所の社長の伝手もあってね。物心をつく前から子役として活躍してたんだ。昼も夜も休みなく。だから、小学校も中学校も、全然通えなくて」 天井を見上げながら、颯真は続ける。 「だからさ。憧れていたんだ。普通の学生に」 「普通の学生?」 意外そうな顔で聞き返してきた水月に、颯真は大きく頷く。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加