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「そう。みんなと同じように、勉強して、部活して、放課後に買い食いして、カラオケ行って。そんな事をしてみたかった」
「それで子役を辞めたの?」
「それもあったし、一番の理由はね」
そうして、遠くを見つめるように天井を見上げたまま、小声で話したのだった。
「虐められていたんだ。学校でも、芸能界でも」
「虐めって、ソウくんが!?」
「そう。気取ってるって。俳優をしている父親の力だろうって。人気子役だから調子に乗ってるっていうのも言われた。学校でも、芸能界でも」
あの頃の颯真には、家以外には居場所がなかった。どこに行っても、自分の悪口を言われているような気がしていた。
家の外には居場所がなくて、苦しかった。
「それもあって学校には、ほとんど行かなかった。やがて、仕事での虐めも辛くなってくると、家から出られなくなった。すると、仕事も来なくなって、それで子役を辞めたんだ」
仕事に行っても、父親の名前を出されて、親のコネで仕事を貰っていると言われた。
衣装を隠され、私物を盗まれた事もあった。
「家族に相談しなかったの?」
颯真は首を振る。
「心配をかけたくなかったから。学校に行かなかった時点で、家族に迷惑をかけているわけだし」
家族には相談しなかったが、学校にも仕事にも行かなくなった事で、なんとなく気づかれていたかもしれない。
学校には行けなかった分、颯真は必死になって勉強して、中学校の卒業直前に、なんとか郊外にある私立の男子高校に入学出来た。
郊外なら、颯真の顔を知っていても、さほど騒がれないだろうと考えての事だった。
本当は高校に行く気はなかったが、これ以上、家族が悲しませたくなかった。
入学したての頃は、我慢して高校に通い続けた。
「高校に入学して、俺が子役だった事を知っていた先輩から、とある部活に熱心に勧誘された。それが演劇部だった。最初はやる気はなかったんだけど、でも部活がきっかけで気づけたんだ」
電源の入っていないテレビに、力なく笑う自分が写っていた。その隣に心配そうな顔で座る水月の姿も。
「俺は誰かを喜ばせるのが好きだって。それと同じくらい、歌って踊って演じるのが好きなんだって」
その頃から、将来は誰かを喜ばせる為に、歌って踊るエンターテイナーになりたいと考えるようになった。
その時は、今度こそ父親の力ではなく、自分の力でなりたいと。
「誰かを喜ばせつつ、俺自身も歌って踊って演じたくて、そうしたら、俺にはここしか無いと思えた。
何を言われても、何をされても、今度こそ、ここにーー芸能界にいるんだって気持ちになってきたんだ。
それで、アイドルとして芸能界に戻ってきた。
これが、俺がこの仕事を始めた本当の理由」
それから、颯真は傍らの水月に視線を向ける。
ーー呆れられたかな。
これまで、水月に頼られたくて、同じ秘密を持つ仲間として安心させたくて、しっかりした面しか見せた事がなかった。
こんな風に、自ら弱点を晒した事はなかった。
水月にどう思われたのか、どう言われるのか、何よりこんな弱い自分が恥ずかしくて知りたくなかった。
けれども、いずれは知られてしまうなら、ここで話してしまいたかった。
黙ったまま俯いていた水月だったが、やがて「良かった」肩を落としたのだった。
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