月のきれいな夜だから

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 ここは日本列島のだいたい真ん中、中部地方にある某政令指定都市――は家賃が高いので住まいはすぐ隣。サボテンで有名な地方都市。  住まいは駅から遠くない「ザ・昭和」の味のあるアパート。  大都市から少し離れただけだが、お家賃も生活費も懐に優しい。  実家は転勤族、中学を卒業するまでに全国制覇を果たした強者だ。  さすがに高校からは親元を離れて今の場所で一人暮らし。  大概の事は一人でできる。  親の仕事は会社員だと思っていた。否、会社員ではあるのだが――そこは普通の会社ではなかった。  大学卒業後に親のコネでそこに入社して、アルバイトをしながら細々と暮らしている。  壁の薄い安アパートは隣のテレビの音が目覚まし代わり。 「……ぶぇっくしゅん!」  ど派手なくしゃみで目が覚めた。  薄いカーテン越しに部屋に飛び込むまばゆい朝日。  なぜか鼻先にふわふわした感触がある。 (か、体が動かない! 金縛りか?)  情けなくも思いっきり取り乱したが、それは日常茶飯事。  先ほどから笛のような――寝息が聞こえる。 (……なるほど、合点がいった)  金縛り――否、呼吸困難の原因がそこにあった。 「睦月、重い」  ずっしり押しつぶされている状態。  どうにか自由が利く左手で、鼻先をつついてみる。  ――反応ナシ。  いい加減苦しい。こぶしを握ってそいつを思いっきりぶん殴ってやる。  ぎゃふん、と情けない声を上げてそいつは目を覚ました。  ゆっくりと金色の目を開けて、ちょっとだけ頭をずらす。 (苦しい。そこはまだ俺の胸の上だ)  くそ暑い最中、そいつはずっしりのっかって半ば潰すように寝ている。 (モフモフの毛並みがくそ暑い)  大きさは成犬のグレートピレニーズ。いわゆる超大型犬。  押しつぶされてる方はひょろりと上背のある鶏ガラ。 (――動けん) 「さっさとどけ、殺す気か?」 「えー、気持ちよく寝てただけじゃん」 「俺の上で寝るな」  思い返せば睦月は昨夜は床で寝ていたはずである。  何をどうやったらベッドの上の隼人を押し潰すことになるのか分からないが寝相は極めて悪い。デカいのではっきり言って邪魔だ。
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