月のきれいな夜だから

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 ようやく起き出した隼人を睨む金色の目。 「隼人、腹減った」  情けない声を上げるのは腹いせに床の上に蹴り落とされた睦月。  まるで白熊の敷物だが、これは犬ですらない。なんと化け狼。 (化け物のくせに、一人前に腹は減るらしい) 「その辺で食べて来い」 「えー。マズいしー。オレってデリケートだから腹壊すしー」  最近では誰が主人なのだかよく分からない。 (だが、これを見せれば威厳を発揮できる必殺アイテムがある!)  台所から持ってきたのはオレンジのソーセージ。  とたん、睦月の目の色が変わった。  風の勢いで足元に飛んできてびしぃっとお座り。  コイツのお陰で睦月は百歳でちゃんとお座りができるようになった。 「ちょうだい、ちょうだい、ご主人様」  ご機嫌で歌う睦月の大好物は魚肉ソーセージ。  狼のくせにもはや肉ですらない。 (狼のプライドはどこへやった?) 「そうかそうか。ご主人様がこの魚肉ソーセージやるからちゃんということを聞いて拾い食いなんかするんじゃないぞ」 「うん。しない。隼人大好き」  心にもないことを言っているが、せめて一時の優越感に浸らせてくれ。  ビニールを剥いだピンクのそれをぱっくり一口で平らげ、機嫌よく大きく湿った舌で顔をなめあげられ、びっしょり濡れた。 (うん。魚肉ソーセージの香り) 「ごーしゅーじーんーさーまぁ」  猫なで声ならぬ化け狼声。絡まれると面倒くさいので、本日は特別にもう一本くれてやる。  ――なんと太っ腹。  よだれで濡れた顔をぬぐって、手を伸ばしてテーブルに置かれた眼鏡を取る。  ――別に目が悪いわけではない。隼人には特別な能力がある。  死んだ人、いわゆる幽霊が見えるのだ。理由は分からないが人工物を通すとお化けが見えなくなる。視力矯正用ではなく便利アイテムなのだ。  因みに睦月はちゃんと見える。  専らこれは交通事故防止。  なんせ今住んでいる地域は交通事故死亡者ワーストクラスの有名な都市。  不幸にしてお亡くなりあそばせたかたが地縛霊となり、その辺でうろうろしているのだ。全部見える状態では街も歩けない。運転なんて自殺行為だ。 
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