私は別に構わないけど

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私は別に構わないけど

「いらっしゃいませ。あら、新婚さんですか?」女将が出迎えると丁寧にお辞儀をする。 「やだー、新婚さんだなんて」巴は顔を真っ赤に染めてパチンと刈谷の腕を叩く。 「い、いえ、違います・・・・・・・・、たまたま、電車で一緒になっただけで・・・・・・、俺達他人です!」刈谷は否定する。まさかの展開に少し驚いている。二人が予約していた旅館は全く同じところであった。まさに運命的と巴の胸の鼓動は激しく高鳴った。 「そうですか、それは失礼いたしました。刈谷様と葉月様ですね。遠い所お疲れ様です」そう言うと女将は二人を部屋へ案内する。「こちらです」これまた偶然二人の部屋は隣同士であった。「どうぞ、ごゆっくり」そう言い残すと女将は姿を消した。 「そ、それじゃあ・・・・・・・」刈谷は軽く会釈すると自分の部屋へはいって行った。巴はその姿を見届けてから部屋の中へ。 「ああ、モロタイプ・・・・・・・・」部屋に飛び込むと、巴は鞄を放り投げてから畳の上に寝転ぶ。すっかり、ここに来たのが失恋旅行であった事を完全に忘れている。もう、新しい恋の芽生えに胸がどんどんと高鳴っていく。「うーん・・・・・・、温泉入ろう!」立ち上がると唐突に衣服を脱いで、浴衣に着替えだした。 ★ 「ふう、やっと落ち着いたな。仕事は明日からだな・・・・・・・・」刈谷は座布団の上にすわると、テーブルに置かれたお茶を入れ、煎餅にかぶりつく。「しかし、もろ和風の部屋だな・・・・・・・・」旅館というので当たり前ではあるのであろうが、仕事で使う宿はたいてい安くて便利なビジネスホテルが多くて、旅館などに泊まるのは、プライベートな仲間のとの旅行位であった。目の前に大きな襖がそそり立っている。きっとここに、浴衣やら布団があるのであろう。彼は立ち上がると両手を襖の取っ手を掴み、左右に勢いよく開いた。 「あっ・・・・・・・・・」その瞬間、刈谷は時が止まったように固まってしまった。襖を開いた先には、彼の思った光景は無かった。そこには、下着姿で今にも背中のブラジャーのフックを外そうとする巴の姿があった。 「えっ・・・・・・」巴の時間も止まってしまったようだ。そのまま少しの間、2人は沈黙のまま見つめあった。 「ご、ごめんなさい!」我に返った刈谷は後ろを向いて襖を締めた。 「きゃあ!」と悲鳴を上げてはみるが、なぜかその声は嫌がっているようには聞こえなかった。一応、浴衣を鷲掴みにしてその裸体を隠す。 「ま、まさか、部屋がつながっているなんて思わなくて、すいません!」刈谷は襖越しに謝罪を口にする。 「い、いいえ!大丈夫です。見られても減るもんじゃないし・・・・・・・・」なんだか訳の解らない事を言ってしまう。 「こんなの困りますよね。部屋を変えてもらいましょう!」刈谷は女将に部屋の変更を申し込みに行ったようだ。 「わ、私は別に構わないけど・・・・・・・・」巴は、頬を真っ赤に染めた。
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