~4. カミナと『KAMINA』

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~4. カミナと『KAMINA』

' どこだろうここは… ' カミナは今の状況が把握出来なかった。 しかし全く初めての場所でもない気がする。 『随分久しぶりだからね… こうやって接続出来た事でボクもやっと君の状態と状況を把握する事が出来たよ… 』 姿の見えない懐かしい声は優しくカミナに語り掛ける。 「貴方は… 誰?… 」 『うん、今の君はナノコートで守られているとは言え、あちこちダメージが蓄積されて居るし、ボクとの接続が途切れて居た為に記憶の保存が失われている部分も多い様だ… 』 ' ボクの全てが分かっているのか?… ' カミナは心の中で思った。 『ああ、今君とボクは完全にリンクしているからね。 ボクはKAMINA…… 君のマザーコンピュータであり君はボクの分身としてそこに居る』 「… 貴方の… いや君の… 分身… ?」 『そうだ。君はボクだ。だから君が地球に向かった時の記憶、いやボク達の使命を君に再ダウンロードするとしよう…… 』 すると…… 物凄い速さで過去の記憶がカミナの頭脳に入って来た。いや、蘇ったと言うべきか。 『それから、そちらの月詠にもアクセスさせて貰おう。地球の情報も把握して起きたいからね』 するとカミナを中継してKAMINAは月詠の情報を得始めた。 ~. その頃、藤村研究室では突然のコンピュータの起動、月詠の可動に研究員達が慌てふためいていた。 量子ネットワークで接続しているとは言え、藤村研究室は月詠のプロテクトを総て解く事は出来ていなかった。 というより本来 ' 不可能 ' な事だった。 それは『量子暗号』と言うプロテクトが掛けてあるからだ。 これを破るのは不可能とされている。 それが月詠だけでなく研究室のコンピュータの情報までもが猛烈な勢いでハッキングを受けていた。 しかしその時間は藤村研究室のコンピュータが起動してから約2分程の出来事だった。 藤村研究室では誰にどんな情報がどれだけ持ち出されたのか全く把握出来なかった。 「何だったんだ… 一体…… 」 藤村を初め他の研究員も何が何だか分からなかった。 月詠も今は元の様に静けさを取り戻していた。 ただ一つの変化を除いて。 藤村研究室では把握出来ていなかった。 月詠は『自分のマザーコンピュータ』との接続を復活していた。 ~. 天野研究室ではカミナが目を開く迄の約2分間を静かに待っていた。 この僅かな時間、天野、西谷、そしてルナは少し体を震わせたりしていたカミナを見守るしかなかったのだが、目を開いたカミナを見て全員が安堵した。 「カミナ…くん?… 大丈夫?… 」 ルナは心配そうに声を掛けた。 「… はい、大丈夫です。ルナさん、天野教授、西谷さん、お陰様で僕は記憶を取り戻す事が出来ました。本当に有難う御座いました」 カミナは立ち上がり、皆にお辞儀をした。 「いやいや、私の専門外ではあったが科学者として凄い経験をさせてもらったよ。こちらこそお礼を言わなければ。有難う、カミナ君!」 天野はロストテクノロジーの凄さを実際に見る事が出来て素直に感動していた。 「まあ、予想外に早く修理が出来てしまったから、予定を全てキャンセルする必要はなかったがね?」 そう言って笑った。 「すみませんでした… 」 「いやいや、たまにはゆっくりするのも良いだろう。それに研究意欲を大いに掻き立てられたよ!」 謝るカミナに天野は笑顔で答えた。 こんな世界の誰も味わえない感動を自分の手で味わえたのだから、今日のスケジュールなどどうと言う事はない。 「ルナさん、約束通り手当をして下さり、本当に有難う御座います。ぼくも約束を果たします。必ず… 」 「そんな大袈裟な… でも治って本当に良かったね!だけどカミナくんの約束って何だったかしら?」 ルナは首を傾げたが、カミナの真意など知る由もなかった…… カミナは続けた。 「それから西谷さんも。 貴女が居なければ僕は僕を取り戻す事は出来なかったかも知れません。 貴女とお会い出来た事、本当に感謝します」 カミナは真摯に頭を下げた。 「いえいえ、頭を上げてカミナ君。こちらが恐縮するわ。 私の専門分野の本当の姿を見せてもらえたんだし、私の方こそ有難う御座いますだわ」 西谷は非常に紳士的なカミナの対応に恐縮すると同時に、ロストテクノロジーが如何に進歩した技術だったのか、また人類が失った技術がどれ程の損失だったのかを改めて認識した。 「この御恩はいずれちゃんとお返しします」 カミナの心遣いに三人はとても心が温かくなった。 ' カミナくんが人間じゃないなんて信じられないわ… 人間以上に人間らしいじゃない… ' それはルナだけでなく天野も西谷も感じていた事だった。 「ところでカミナ君、結局修理したパーツはどんな役割のパーツだったのかね?量子ネットワークのパーツだとは思うのだが… 」 天野は修理した部品がカミナにどの様な変化をもたらしたのかが気になり尋ねてみた。 「はい、確かに修理して頂いたパーツは量子ネットワークの為の物でした。簡単に言えば相互送受信アンテナです。お陰で僕のマザーコンピュータと接続が回復する事が出来ました」 「…… やはり君のマザーコンピュータが存在していたか…… しかし月の涙の被害を免れた量子コンピュータはない筈だが…… 」 そう、日本では『天照』。 他にも世界各国の量子コンピュータで現存する物は報告されていない。 本体が無事でもその電力を供給する為の発電施設がほぼ壊滅していたからだ。 発電手段は国力に応じる部分があったので様々な発電施設が世界には存在していたが『月の涙事件』以前の主流の発電施設は『核融合反応炉』を使用した施設だった。 各国を統治する量子コンピュータはそれだけ電力を必要としていたのだ。 辛うじて難を逃れ、何とか別の手段で電力供給を行い生き残りを掛けた量子コンピュータ達も、結局電力供給が追い付かなくなって機能を停止した。 また量子ネットワークが寸断され、月詠の様な補助コンピュータを失った量子コンピュータは本来の性能を発揮出来ず、結局は放棄されてしまったのだった。 それも既に約180年も過去の話だ。 天野の疑問は西谷も同様だった。 「それに関しては今はお答え出来ません… 申し訳ありませんが、今の人類にそれを知られるのは現在の平穏を乱す事に繋がりますので… 」 カミナの答えに天野も西谷も、ルナも頷くしかなかった。 「ただ先程、月詠とアクセスして色々と情報を得る事が出来ました」 「え!?」 西谷は絶句した。 月詠と現在量子ネットワークを構築出来ているのは藤村研究室だけだ。 西谷は今この瞬間に研究室が大変な騒ぎになっているのではないかと想像したが、まさにその通りだった。 カミナの修理の為に量子ネットワークの素材やその他の材料などが必要になるかも知れなかったが、結局それらは必要なかった。 それに量子ネットワークを構築する為には『量子暗号』の解読が必要な筈なのに、あの僅かな時間で月詠にアクセスし情報をダウンロードしたと言うのだから絶句もしようと言うものだ。 ' あの目を閉じていた時間は月詠とアクセスしていたからだったと言うの?… ' 「ルナさん、西谷さんに後で伝えなくてはならない情報があるのですが、どこか人に聞かれない場所に案内して頂けませんか?」 カミナはルナを見て聞いてみたが、それには天野が返答した。 「ん?それならこの研究室で構わんのじゃないかね?」 天野はそう提案した。 「天野教授、申し訳ありません。これは西谷さんにとって非常にデリケートな情報なので、ルナさんと西谷さんとボクだけでお話させて頂きたいのです」 「お、おお、そうか… ならば仕方ない … 」 天野は少し疎外感を感じたが、素直にそこは引き下がった。 「有難う御座います… ルナさん、西谷さん如何でしょう?」 カミナは続けた。 「西谷先輩… どうですか?… 」 ルナが西谷に伺いを立てた。 「… そうね… どんな内容か分からないけど… 私にとって重要な話なら聞かないといけないわね。お昼に中庭の木陰でお弁当食べながらでどうかしら?」 「カミナくん、それでOK?」 「はい、監視カメラも避けて人が近付けば僕のセンサーで分かりますから、そこで待ち合わせしましょう」 カミナは修理が終わって以降、ここに来る迄とは打って変わってしっかりした頼り甲斐のある雰囲気を醸し出していた。 ' これが本来のカミナくんの姿なのかしら… ' 話が決まると西谷は少し後ろ髪引かれる思いもあったが、大変な騒ぎになっているであろう自分の研究室に帰って行った。 ~. KAMINAはカミナからリアルタイムで送られてくる全ての情報を受けながら、分析を続けていた。 『 人間もやはり善なる存在だけではなかったのだな… 』 ' 人は善なる存在ではないのかい? 送り出された時の君はボクに「人は善なる存在だ」と教えてくれたじゃないか ' 『月詠のデータを分析した結果、それはボクの情報不足による誤りだと分かった… それをカミナ、君は西谷に伝えなくてはならない… 』 ' そうか… 仕方がないね。西谷さんには辛い情報だけど、約束を果たすには『彼』の力も必要だからね ' カミナとKAMINAの会話は長く続いていた。 もっとも、人の感覚では刹那の時間しか要してないのだが。 『カミナ、ルナの生体データを調べて欲しい。それによっては約束の実行を早める必要があるかも知れない… 』 ' そうだね… ボクは 今度こそ護らなきゃならないのだからね ' カミナと『KAMINA』の計画が再び動き出した
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