~5. 過去の真相

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~5. 過去の真相

昼休みの約束の時間になり、大学の中庭の木陰にルナとカミナそして西谷の姿があった。 まずは昼食と言う事で、ルナとカミナは売店で菓子パンとドリンクを買って来ていた。 西谷は持参した弁当とお茶だ。 大事な話ならばと言う事で西谷は昼食を先に済ませようと提案した。 食事の際に西谷もカミナの身体について興味津々に質問を始めた。 ・ルナと出会った切っ掛けは? ・最初に男達に絡まれた時に拾った吸殻はどうなったのか? ・今迄どこに居たのか? ・何故頚椎部を破損したのか? ・摂取した食事はどうなるのか? 等々、科学者でなくても興味を持ってしまう事を沢山聞いた。 ルナにしても聞きたい事は沢山あったが、それは代わりに西谷が聞いていた。 カミナは快く質問に答えた。 ・男達に絡まれ困っていた所をルナに助けられた事。 ・拾った吸殻は自分のナノコートの能力で環境に害が無い様に分解した事。 ・月の涙事件の際に乗っていた脱出艇が日本の北の方に着陸したらしい事。 ・その際機体が壊れてしまい、その時の衝撃で破損した可能性がある事。 ・当時の外部の状況からオートで休眠状態に入った事。 ・目覚めたのは数ヶ月前である事。 ・身体各部の機能が破損していて記憶を欠損していたが、何故か南に向かう必要を感じて今九州に居る事。 ・食事は有機エネルギーとして人工皮膚等の再生に使われる事。 ・不要な物は分解され大気に放出される事。 カミナは丁寧に答えた。 『秘密にすべき事』以外は… そんな事を話している間に皆の昼食も終わった。 「西谷 櫻子さん。では本題に入りたいと思いますが… これは貴女にとって非常に重要な事であると同時にとても辛い内容です… 」 カミナの言葉に西谷の脳裏では様々な事が駆け巡り表情が強ばった。 ' カミナ君は一体何を知ってると言うの? ' 西谷の緊張した顔を見て、ルナもゴクリと唾を飲み込んだ。 「… ある程度察しはついていらっしゃる様子ですね。 そう、西谷さんのお父様の死の真相についてです」 西谷は更に固まった。 … カミナは西谷の表情を読み取りながら話を始めた。 「ちょ、ちょっと待ってカミナくん!」 ルナが慌てた。それがどれだけ西谷を苦しめて来た事かを知っているからだ。 「ルナさん、これは西谷さんに事実を突き付けて苦しめる事が目的ではありません。 その先にある大切な話をする為に避けて通れない事柄だからです」 「え?… 」 ルナは困惑した。 ' 先にある大切な話?' 「… 分かったわ。カミナ君、話して…… 」 西谷も事実とその先にある大切な事とやらの話を聞く覚悟を決めた。 「ではまず結論から先に話します。 西谷さんのお父様の死は… 事故死ではありません… 」 「!」 西谷の父、西谷 毅が亡くなった現場の近くには櫻子も居た。 天照発掘調査の途中崩落が起こった。 それが原因と聞かされていた。 ' あれが事故じゃなかったですって!?それじゃ殺されたとでも言うの?' 西谷の表情を読み取ってカミナはコクリと頷いた。 「確かに事故が起こったのは事実です。 しかしお父様が死に到る原因を作ったのは…… 貴女が師事している藤村教授です」 ルナは言葉を失った… 「… 何故、どうしてそう言えるの?…… その根拠は何なの?…」 西谷の声は震えていた。 「はい… この部分が他人に、特に藤村教授に知られる訳には行かない所なのですが… 」 「天照…… 実はずっと可動しています。今、この瞬間も… 」 二人は絶句するしかなかった。 今世界で可動している量子コンピュータは存在しない事になっている。 故にロストテクノロジーと呼ばれ、考古科学と言う物が生まれたのだ。 「月詠にアクセスした時に分かったのですが、世界各国の量子コンピュータも破壊を免れている物は、休眠状態なだけで最近になって目覚め始めている物も存在します」 カミナは話を続けた。 「月の涙事件が起こった179年前。 世界の量子コンピュータの防御機能はまさに鉄壁でした。 それは補助演算システムから常に最新の情報がアップロードされているその国の頭脳であり心臓、まさにその国の生命線だったからです。 量子コンピュータはあらゆる可能性から最適解を導き出し可能な限りの自己防衛策を講じていたのですから」 カミナの話は理にかなった話だった。 しかしあまりにも現在の常識と異なる為、直ぐに受け入れられる話でもなかった。 それに藤村教授の話だ。 「休眠状態から目覚めていた天照の施設はセキュリティも完全とは行かない迄も復旧しつつありました。 ですから事故の際の調査隊の情報は、映像も音声もデータが残っていました」 いわゆる『決定的証拠』と言う奴だ。 「その一部始終、見ようと思えば藤村研究室のPCで閲覧出来ます。 ボクがアクセスを許可すれば、ですが… しかしそれは色々と西谷さんを危険に追い込む事になります。 だからロックは掛けたままにしています。」 「………… 」 西谷は俯いた… 「… 父は… 父は何故親友だった筈の藤村教授に殺されなければならなかったの?… 」 震える声でカミナに問う。 「… 殺された、と言うのは正確ではありませんが…… ボクは嘘をつけない様になっています。 ですからありのままの事実をお話しする事は出来ます。 しかし西谷さんの、心理的ストレスの大きさを考えるとかい摘んでお話しする方が良いと考えますが… 」 西谷は少し考えた後答えた。 「… 私は本当の事を知りたい… 」 「西谷さん… ボクは貴女の心に黒い炎を灯したくはありません。それに天照は貴女にきちんとお任せしたいと考えています。 とても欲望を優先した藤村教授には託せない… 」 「…… カミナ君、貴方の心遣いに感謝するわ。でもやはり私は本当の事が知りたいの」 西谷は顔を上げ真剣な眼差しでカミナに要求した。 「… 分かりました。西谷さんを信じましょう… 」 そう言うと、カミナは8年前の天照発掘調査事故について語りだした。 ~. 日本の量子コンピュータ『天照』はその名前に縁が深い伊勢神宮の近くに建設されていた。 本来建設された200年以上前は、国民の多くがその場所すら知らされず、上空からも発見され難い様に高度な光学迷彩を含むカモフラージュが施されていた。 一般的にはその国の首都に配置されそうな物だがその重要度の高さ故に高度な秘匿性も求められた。 その為、カモフラージュを施された上に万が一の他国からの攻撃や、天災に備えて非常に堅牢な構造物の中に造られていた。 それらを実現可能にしたのは量子通信、量子ネットワークの出現であった。 多くの国では動力源として核融合炉を使用していたが、天照の場合は実は違った。 日本にも勿論核融合炉は多く造られていたが、それは日本の量子コンピュータの場所を推察される可能性もあった為、違う手段が取られていた。 静止衛星に太陽光受信アンテナを採用し、そこからマイクロウェーブ変換され直接天照の施設に送電されていたのだ。 当然の事ながら太陽光受信アンテナを搭載した日本の衛星は24時間365日送電を可能にする為に複数機地球を取り囲み、受信アンテナ側も念の為分散配置されていた。 大陸の国家群は地底深くに設置したり様々な方法を採用していたが、先に量子コンピュータが広く運用されていたならばもっと良い設置場所が提示されていた事だろう。 いわゆる量子コンピュータの黎明期であったが故の失敗だった。 それが国防を難しくする一つの要因になっていた。 まだ世界が人間の既得権益、利益、欲望などのエゴで成り立っていた時代の事だ。 日本は島国故の防衛対策、環境保全の観点から選ばれたのが伊勢神宮の傍の一宇田の高台だった。 自然の岩盤を利用しつつ光学迷彩やカモフラージュを行った為に近くの展望台からも分からない様に造られていた。 堅牢に作られたそれは月の涙事件の被害をも最小限に抑えていた。 しかし巻き上がった粉塵は世界中を覆い尽くし、世界各国では津波被害、地震、隕石落下などで地形が変形し、世界地図は21世紀の物から大きく書き換えられる事になった。 そう、『月の涙事件』とは西暦2120年10月に起こった大災害。 それは地球と月の間を超巨大隕石が通過すると言う非常に珍しい天体ショーに合わせた人類の天体調査が発端だった。 本来何の影響も無いまま通過するだけの予定だった隕石に調査隊が降り立ち、地殻調査を行うプロジェクトが起こした未曾有の隕石の爆発事故。 地球に到達したのはその一部だったが、地上に降り注いだ隕石の破片が起こした『人災』だった…… それから約130年もの間、地球は太陽や月、星を見る事が適わなくなった。 それは多くの生物が命を失っただけでなく、生態系にも大きな変化を強要した。 約120億に届こうかと言う人口はその3分の2を死に追いやった。 その地球を覆っていた粉塵がほぼ晴れたのが50年前だ。 そこから新しい人類の歴史が始まった。 失われたテクノロジーを復興させようとする研究者も現れた。 その中に西谷 毅や藤村 規夫も居た。 当時『天照』の場所はもう完全に不明になっていた。しかし地上に降り積もっていた粉塵が風化していく中で、明らかに人口施設だった物が世界中で発見されていた。 施されていた光学迷彩などのカモフラージュはエネルギー不足の為に機能してなかった。 その中で『天照』が埋もれている場所の可能性が高いとして調べていたのが西谷 毅と藤村 規夫の研究チームだった。 そして発掘調査としてしっかり足場や櫓を組んで崩落を防ぎながら調査に入って行った。 そこに櫻子も同行していたのだ。 しかし二人の発掘調査隊の最深部はその崩落を防ぐ安全策は取られていなかった。 何故なら西谷と藤村の立っていた場所は綺麗な空間として存在していたからだ。 その部屋の奥には頑丈な扉が在り、その扉には『AMATERASU』の文字があった。 目の前に自分達が永年探し求めていた物があるのだ。気持ちがはやるのは当然だった。 藤村はその扉を開ける事に躍起になった。 扉の横にはセキュリティの操作パネルや生体認証装置と思われる機器があった。西谷も当然その気持ちは良く分かったし、自分も早く先に進みたかった。 だが西谷は冷静に考えた。 「藤村、待て。こんな重要施設の、生体認証の様なセキュリティがある部屋だ。無理にこじ開けて入ろうとするのは危険な気がする」 「何を言ってる西谷!電力は大昔に途絶えてるんだ。そんなセキュリティが働いてる訳がない!」 藤村は西谷の話に耳を貸さずに半ば強引に扉をこじ開けに掛かった。 藤村の話はもっともに聞こえたが、西谷は違和感を感じていた。 部屋は冷気で満たされていた。 地下に潜って来ているのだからそれは自然な事だ。 だがその冷気は何か違った。 西谷は上の方からの『音』に気付いた。 「藤村、音がする!」 西谷はその音が何の音なのかを考えた。 「ああっ、音が何だって!?」 西谷は首筋に直接当たる冷気に気付いた。そして上を向いた。 「あれはエアコンか!?」 そう、その部屋の冷気はエアコンの冷気だったのだ。 ' いかん、ここには電気が通っている! ' そう気付いた時、扉を開こうとしていた藤村は電撃で弾き飛ばされた! 「グアッ!!」 「藤村!」 西谷は倒れた藤村に駆け寄った。 「大丈夫か!」 「あ、ああ…… クッ!」 藤村は何が起こったのか分からなかった。 「藤村、この部屋は電気が来ている。この部屋の冷たさは地下に潜ってるからじゃない。エアコンが効いている為だ!」 「で、電気?エアコン?… しかし何故?… 」 「それはまだ分からん。だが電気が来ていると言う事は、この部屋のセキュリティが生きていると言う事だ。だから今お前はスタンを喰らったんだ!」 藤村は愕然とした。もうすぐ目の前に自分達が探し求めていた天照があると言うのに! 「一旦この部屋を出よう。あのスタンだけがここのセキュリティではない筈だ!」 西谷は藤村の肩を担いで部屋の出口に向かって歩きだした。 しかし藤村は我慢ならなかった。 ' やっとここまで到達したんだ!予算だってもうほとんど無い… ここでセキュリティの解析に時間を取られていたら次はいつになるか分からん! … ならばセキュリティを壊してでも!' そう思った瞬間、藤村は西谷を押し飛ばしてセキュリティの操作パネルに走りだそうとしたその時! 部屋の上から防御レーザーシステムが狙っているのを西谷は見た! 次の瞬間、レーザーが身体を穿いて二人は倒れ込んだ。 しかし穿かれたのは藤村を庇った西谷だった。 「西谷ぃっ!」 藤村は覆い被さる西谷に叫んだ。 「だ、大丈夫だ… 早く部屋を出るんだ… 」 藤村は西谷を担ぎ、部屋の出口へ向かった。しかしレーザーはまた追い討ちを掛ける様に二人を狙って来た。 数発が二人の身体に焼けた痕を作った。 しかし何とか部屋の外の通路まで辿り着いた。だが無情のレーザーが通路の壁面の櫓を固定しているロープを焼き切ってしまった。 慌てて藤村は脚を進めたが、後ろからまだレーザーが追って来る。 そのレーザーは二人には当たらなかったが、まるで櫓を壊すかの様に壁面を焼いた。 ゴゴゴゴゴッ 音を立てて櫓が崩れだす。 「西谷!西谷!」 藤村は自分も怪我を負っていたが、構わず力の限り前え脚を運んだ。 しかし出口の直前で二人は崩落に巻き込まれた…… 櫻子は、その地下に繋がる通路の手前の広場で他の研究員達と別の仕事をしていた。 そこで通路の崩落の音を聞いた。 そう、藤村が欲望を優先させなければ父は死なずに済んだ筈だと言う事をカミナは伝えたかったのだ。 それだけではない。 『天照』は稼働し続けている事も。 「最後にもう一点だけ…… 藤村教授は記憶を失っていません」 カミナは付け足した。
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