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~7. 二人のデート
ルナとカミナを見送った天野は、カミナが敢えて言わなかった事を整理していた。
' まずは西谷君に彼が話した大切な話とは何か?だが…
灰月君には聞かせても良い西谷君のデリケートな話となると考えられるのは… 西谷君の父君、『西谷 毅』氏についてだろう…
彼は月詠だけでなく、なんと『天照』にも接触したと言う。
しかも天照は休眠状態から目覚めていると…
事実ならばとんでもない世界的大発見なのだが…
恐らくそこから西谷 毅氏の重大な情報を得たと考えるのが自然だ。
ならば考えられる重大な情報と言うのは…
彼の『死の真相』だ…
当時一緒に事故に巻き込まれた藤村教授は確かあの事故当時の記憶を失っていると言う話だが……
これはひょっとすると…… '
そこから先は完全な憶測にしかならないのでそれについては後回しにする事にした。
' 次にだ…
カミナ君、彼は自分の体内に高度な演算処理システムも大容量記憶装置も持たないと言う…
本人も記憶や記録データはクラウドに預けてある事を明言しているし、マザーコンピュータとのリンクを復旧出来た事で『本来の自分を取り戻せた』とも言っていた。
また彼自身の『性能』が極端にアップした様に感じる…
だがそのマザーコンピュータの情報は『今は明かせない』
『今明かすと人類の平穏を脅かしかねない』と言う…
それはそうだろう。
彼自身がロストテクノロジーそのものであるのに、そのマザーコンピュータの量子コンピュータが存在すると世間に知られれば戦争にすらなり兼ねない。
彼の事は秘匿されなければ大変な事態を招くだろう。
そして彼の話した事は信じておくべきだ。彼の身体の中まで見たのだ。彼のテクノロジーは正真正銘のロストテクノロジーだ。その彼が自分は嘘をつけないと何度も言っている。
彼のマザーコンピュータが嘘をつけない様に指示を出しているのだろう。
そして更に重要な事は、
彼のマザーコンピュータは『月の涙事件より前から可動し続けている』
なのに『明かす事が出来ない謎の量子コンピュータ』と言う事だ。
だから『天照』が彼のマザーコンピュータと言う線はない。
ならば彼のマザーコンピュータは一体何処にある?
地球上には存在する筈がない事は彼とも話したし、それを彼も否定しなかった。
彼自身についても休眠状態から目覚めたのは最近だと言っていた。
しかしマザーコンピュータとリンクした事で彼は本来の彼に戻っている '
天野は朝から起こった出来事、彼の発言を細かく思い出していた。
'『約束を守ります』?…
… 彼の約束とは?彼が受けている指令とは何だ?'
' …『脱出艇』で日本の北部に『着陸』?……
彼は一体何処から来たんだ?'
天野の頭の中で様々な疑問がキーワードと共にグルグル回っていた。
' 彼は地上にいた訳ではない…
……当時の記録から調べ直せば事実が見えて来るかも知れないな… '
天野は一人の科学者としてカミナの秘密に迫ろうと動き始めた。
その頃…
藤村研究室では西谷が早退届を出していた。
朝から謎の騒動に見舞われた藤村研究室では色々と忙しく原因究明に動いていて、正直主任研究員の西谷が帰ると言うのは勘弁して欲しい状況ではあった。
しかし普段元気な西谷しか知らない他のメンバーや藤村教授は真剣に具合が悪そうな青ざめた西谷を見ては早退届を受理する他なかった。
翌日、西谷は一旦研究室に出て来たが、やはり体調が優れないとの理由でそれから研究室に顔を出さなくなった……
~.
カミナと社会見学と言う名の『デート』をする事になったルナは、バイクの後ろにカミナを乗せ、地元の景色の良いワインディングロードを飛ばしていた。
空気が美味しい!
草原の間を抜けて途中で山並みを見渡せる展望台に立ち寄ってソフトクリームを食べたりして楽しんだ。
カミナは初めて食べるソフトクリームに感動していた。
「ほら、早く食べないと後ろ溶けてるよ!」
慌てて溶けてる所を舌で掬うカミナを見て、ルナはコロコロと笑った。
' … 全く普通の人と変わらないじゃない… この彼がアンドロイドだと言うの?… 過去の世界はこんな人が普通に居たの?'
「ルナさんのも溶けてますよ!」
ルナも慌ててソフトクリームを舐めたがクリームが指に着いてしまった。
指を舐める姿を見てカミナも声を出して笑っていた。
ルナは少し胸がドキッとした。
平日ではあったが展望台は多くの人で賑わっていた。
食事処もあり、昼食の時間はとうに過ぎていたが今お昼を食べている人達もいた。
テレビでは『新星暦初』の日本の宇宙探査機を打ち上げる準備が進んでいるなんて話題がニュースになっていた。
すっかり展望台を満喫した二人は、次にルナのお気に入りのバイカーズカフェにバイクの進路を向けた。
『Cafe ROUTE to the SKY』
店の 看板にはそう書いてあった。
『空への道程』…そんな意味だろうか…
高台にあるそのカフェからは、海と島が一望出来た。
傾いて来た太陽もやがて島の向こうに沈むのだろう。
カミナは高い空を見上げた…
反対側の空にはまだ満月と変わらない白い月が昇っていた。
少し肌寒くなった時間帯、二人はホットコーヒーをマスターに注文した。
マスターに「ルナちゃんが初めて彼氏連れて来たね!」なんて茶化され、ルナは少しムキになって否定したが、昨日出会ったばかりのこの謎ばかりのアンドロイドに悪い気分はしなかった。
寧ろ嬉しかった。
コーヒーを飲みながらルナは何か話をしなきゃと思ったものの、何を話したものやらと考えたが言葉が上手く出なかった。
「美味しい?」
やっと出た言葉がそんな言葉。
「はい、初めてコーヒーと言う飲み物をこうして味わいましたが、少し興奮作用のある飲み物を人は美味しいと感じるんですね」
そのアンドロイドらしい反応に改めてカミナが人間ではない事を認識させられたが、ルナは何故か微笑んでしまった。
' 新しい事を経験して知ってもらうって悪くないな '
ルナはそんな事を思った。
「カミナくん、それだけじゃないのよ?綺麗な景色を眺めながら、コーヒーカップの温かさを両手に感じ、このコーヒーの香りを嗅ぎながら、店内に流れるこのR&Bを聴いて、そして味わうの。この人の五感全てを使うから最高に美味しく感じるのよ」
そう言ってルナは微笑んだ。
「へぇ~、それが人間の感性と言う物なんですね!」
「ルナちゃん、それ俺が教えたセリフだよねぇ」
後ろからマスターがニヤニヤして声を掛けて来た。
「マ、マスター!もう!」
ルナはせっかく良い事言った気でいたのに水を差されてしまった。
カミナは笑いながらも本当に感動した様だった。
流れるR&Bが心地良い。
「ルナさん、手を出してもらえますか?」
突然カミナが右手を差し出してルナの手を求めた。
「え?こ、こう?」
思わずルナは空いていた左手を差し出した。
カミナはにっこり微笑むと、自分のそのナノコートで出来た髪の毛を1本抜いて、ルナの薬指に結び始めた。
「カ、カミナくん!」
ルナは真っ赤になったがカミナはお構い無しにあっと言う間に髪の毛を結び終えた。
するとその髪の毛はスウッと溶ける様に消えた。
「お守りです」
そう言ってまた微笑んだ。
カミナは左手の薬指にどんな意味があるかなどまるで知らなかったが、単純にその指が巻き易いと思っての行動だった。
「これでナノコートがルナさんを守ってくれますよ」
ルナは俯いて小声で言った。
「…バカ…」
「今日は沢山日光も浴びましたし、有機エネルギーも沢山補給出来ましたからその髪の毛1本でもかなりナノコートの効果は高い筈です。安心して下さい!」
ルナはそのカミナのまるで分かってない返事に半ば呆れたが、その好意に素直に礼を言った。
「今日は1日とても楽しかったわ!私の方こそありがと!」
二人はそして帰路に着いた。
カミナは今日1日で益々タンデムシートに乗るのが上手くなっていた。
ルナも朝は不思議に思ったが、今はその理由が分かる。
' カミナくんは学習してるんだわ… それも凄い速さで… '
帰宅した時には日は沈み、月が二人を照らしていた。
ルナは無事カミナの修理が出来た事を父に告げ、夕食はまた盛り上がった。
明日は週末でルナは休みだった。
「カミナくん、明日は私が通ってる道場に一緒に行こうよ!」
カミナは少し驚いたが、快く了承した。
「やった!」
ルナはカミナの進化を想像するとワクワクした。
それに… 少しドキドキしてる自分もいた。
「じゃ、また明日ね… お休み!」
「はい、お休みなさいルナさん… 」
ルナは静かに弟の部屋のドアを閉めた。
ルナは自分のベッドに潜り込み、今日1日の、余りにも多い出来事を思い返していた。
' 何だか昨日出会って一日しか過ごしてないのに、もう何日も一緒に居るみたい… '
ルナはアンドロイドに恋をした事に気付いた。
~.
カミナもベッドに入って目を瞑っていた。
『カミナ、灰月 ルナの生体データが採れた』
' そうか、結果はどうだったんだい?'
『大正解だよ。間違いない、彼女は間違いなくあの人の子孫だ。それもDNA的にもあの人の情報をとても強く受け継いで生まれた、運命の女性だ』
' アハハ、キミが運命を語るのかい?KAMINA … でもそれは本当に奇跡的だ。ボクらはあの人との約束を果たさなきゃならない… '
『ああ、そうだね。しかしこれからの計画はちょっと難しいかも知れないよ。早く彼の力を借りる必要があるが… 』
' … 何か問題が?'
『西谷 櫻子が天照に向かっている。彼女のサポートはボクの方でやるよ。そちらが順調に行けば約束を実行する為の日程が組める』
' そうか… 彼女を死なせる訳には行かない。サポートは任せるよ。だがイレギュラーの要素もいくつかある '
『現状では情報が少な過ぎて不確定要素が多過ぎる。もう少し様子を見るしかないね』
' … 分かった。ルナさんはボクが必ず守るから '
『ああ、よろしく頼むよ。でも万が一の為に予備は準備しておく』
' … 分かった。じゃあ お休み、KAMINA '
『お休み、カミナ』
静かに夜は更けて行った……
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