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~8. 生動
今朝も私は研究室に入った。
「おはようございます」
同僚の男性スタッフが声を掛けて来た。
「ハイ!おはよう!」
私は元気よく挨拶を返した。
「NASAの計画も順調に進んでる様ですね」
男性スタッフは今最もホットな世界的イベントの話題を振ってきた。
「こちらからの観測体制も問題はないかしら?」
「はい、ノープロブレムですね。各観測ポイントでそれぞれ直接の調整が進んでますが、順調に進んでます。
こちらとのリンクも既に完全に同軌完了してます。
それに外宇宙方向側の観測衛星とMB2との同軌も終わってますからね。こちら側が本来の我々の目的ですから」
男性スタッフは目を輝かせていた。
そう、私達の本来の目的は外宇宙の更なる探索だ。
「そうね、でもNASAのプロジェクトも楽しみだけど私達のプロジェクトは今日からが本当の意味でのスタートだわ」
「はい、こちらのプロジェクトが予定通り進むと人類の天文学、宇宙科学だけじゃなく、量子物理学とAIとの関係性すら発展する可能性を秘めています。
従来のタブーがタブーでなくなるかも知れないんですから」
… そう、今迄技術的タブーとされて来た事が、私達のプロジェクトではチャレンジを許されている。
その可能性こそが必要とされたのだから。
「… まぁ私にとってはタブーでなくなる事も興味深いけど、善意と好奇心を設定する事で彼が新しい事を学んでどう進化していくかが楽しみだわ」
「彼?やはり男性設定にされるんですか?」
「そうよ?彼には楽しく学んでいって欲しいし、私も楽しく育てたいから」
男性スタッフは苦笑いしながら言った。
「セレーネなのに男性とは… ま、アシュレイ博士は研究が彼氏ですからね」
「もう、何よそれ!私は今は研究が楽しくて打ち込みたいだけよ?でなきゃMBにまで来たりしないわよ」
私はワザと口を尖らせた。
けれどそれは本当の事だった。
「ハハハ、失礼しました。そりゃそうですよね」
「そうよ」
「しかし男性となると… 名前は変えるんですか?」
「んー、候補はあるんだけどねー。まぁ楽しみにしてて頂戴!」
私も冗談を話しながら、いよいよ今日の予定である作業に入った。
~.
ルナはカーテンの隙間から差し込む朝の陽射しで静かに目を覚ました。
ベッドの中で大きく伸びをした。
よく憶えてなかったが、不思議な夢を見た事だけは憶えていた。
時計を見たら8時を過ぎていた。
' ま、休日の朝だからこんなものよね… '
ふとカミナの顔を思い出した。今日はカミナを道場に連れて行く予定だった。
' カミナくん、今日も初めての経験ね '
どんな風に反応するのか?楽しみに思うと同時に少し胸が高鳴った。
' カミナくんはアンドロイドよ。年齢だってずっと私より上だし…
ん?… でも目覚めたのは今年になってからよね?
実際は私より若いのかしら… '
そんな事を考えてる自分に気付いてルナは顔を赤らめた。
しかし道場での稽古が始まる時間まで何をして過ごすべきかを考えていなかったルナは、それ迄の間をどうするかを布団の中でウトウトしなが考え始めた。
気付けばルナは二度寝していた。
~.
カミナは目覚めていたがまだベッドで横になっていた。
計画実行の為に色々な情報にアクセスしている最中だった。
それらの情報を精査しカミナに行動を指示するのはKAMINAの役割だ。
その中で重要な情報の一つがNEO JAXAによる『新星暦初の宇宙探査機の打ち上げ計画』だった。
カミナはその計画の為にどの様に動くべきかの指示をまだ受けていなかった。
しかし今はとにかくルナと行動を共にする事がカミナにとって最優先事項だった。
自分の修理に貢献してくれた西谷 櫻子の事は気になっていたが、今はルナに伝えるべきではないとの判断をKAMINAがしていた。
それにカミナもルナとの今日の予定を楽しみにしていた。心配事をルナに抱えさせたくなかった。
ルナと出会ってまだ二日目だが、ルナは多くの新しい事を教えてくれた。
好奇心を持って新しい事を学び成長する事はカミナ自身の歓びでもあった。
その機会をルナは今日も与えてくれるのだ。
ルナは自分が約束を果たす為に絶対に守らなければならない対象であると同時に、
カミナにとっての恩人であり、なにより一緒に居て心地良い存在だった。
この情報もKAMINAと同時に共有していた。
しかしそれが人間の持つ『愛情』と言う感情である事を、カミナもKAMINAもまだ理解していなかった。
~.
西谷 櫻子は朝から藤村研究室に顔を出していた。
学校としては休みではあったが研究室は昨日の騒動もあり、出て来ている学生もいた。
藤村教授はまだ来て居ない。
西谷は藤村教授が普段プライベートのPCを扱う際に使うデスクの傍の棚の上に秘かに小型カメラを設置していた。
調度キーボードとモニターが見える位置だ。
勿論バレない様に。
昨日は早退した帰りにそのカメラを仕入れに行っていたのだ。
そして来ていた後輩学生に暫く休む旨を伝え、藤村教授宛の手紙を託した。
そして電車の駅のロッカーに準備していた荷物を持ち出し、三重県伊勢市に向けて電車に乗った。
目的の駅は五十鈴川駅。
西谷はあの現場、『天照』を目指していた。
その頃、天野教授の携帯に一通のメールが届いた。
" 西谷 櫻子さんが、一人で『天照』に向かっています。
By KAMINA "
' カミナ君からか?'
天野教授は嫌な予感がして、まず藤村研究室に内線を入れた。
しかし藤村は居らず学生だけだった。
その際、西谷が昨日も、そして今朝も早退した事を聞いたが、西谷の連絡先までは天野には分からなかった。
藤村教授には「私から内線があった件は伝えなくて良い」と指示をだして内線を切った。
次に西谷の電話番号を確実に知っていそうなルナに電話をしてみた。
しかし何故か携帯はうんともすんとも言わなかった。
ルナは今携帯を持っていなかった。
しかし仮に持っていたとしても繋がらなかっただろう。
念の為ルナの実家にも電話を入れた。
しかし何故か繋がらない。
天野は意味がわからなかった。
' 電波状態が悪いのか?'
それはKAMINAが天野の端末に侵入し監視していたからだった…
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