〜14. Dangerous promise

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〜14. Dangerous promise

朝食を済ませた二人は出掛ける準備をしていた。 ルナは食器を片付けた後、道場へ行くための準備をした。 ルナの道場ではいわゆる『道着』は必要としないが『帯』だけは必要としていた。 他に必要な物はタオルと着替え、水分補給用のスポーツドリンク。 ルナは稽古用のスポーツドリンクを冷蔵庫にいつも保管しているが、今日は自分用と念の為カミナの分の2本を準備した。 そして、修理に出した携帯端末の引き換えの書類。 正直ルナは自分で修理出来なくもなかったのだが、万が一ミス等した場合にメーカー保証が利かなくなる事を考えたら素直に修理に出した方が安心だったし手間も省けた。 しばらく連絡は取りにくくなったが仕方がない。 一方カミナもライダースジャケットに着替えて工場の外で待機していた。 そのカミナの前で照矢がルナのバイクの空気圧とサスペンション、チェーンの張り具合の調整をしていた。 「当分は二人乗りで移動する事になりそうだからなぁ」 カミナは作業を見ながら頷いた。 「ご心配お掛けします。でも万が一の時は必ず僕がルナさんをお守りしますから」 カミナは真剣にそう伝えた。 「ハッハッハッ、ありがとなカミナ君!でも事故は相手が突っ込んで来る事があるからね」 ' ルナの技量は分かってるが、二人乗りだとな… ' 「有難うございます」 ' ルナさんのお父さんは本当に気を配るのが上手な人だ… 勉強になる ' そうこうしている間にルナが現れた。 「あれ?父さん、あぁ~調整してくれたんだ。有難う!」 いつもの事ながら父の気配りには頭が下がる。朝食の事もそうだ。 父の家族愛は凄いと思う。 「朝御飯も準備してくれてありがとう。私がするつもりだったんだけど… 二度寝しちゃってゴメン」 「なぁに、あの程度朝飯前さ!朝食だけに。ガッハッハッ!」 父のくだらないギャグも毎度の事だが、微笑ましく思えた。 「じゃあ、今日は携帯取りに行って、食事して、道場で稽古終わったら帰るから」 「おう、気ぃつけてなぁ。稽古前に食い過ぎんなよ!」 ルナはそれに親指をグッと立てサムズアップで応えた。 「カミナくん、悪いけど荷物は君が背負ってくれる?」 そう言って荷物を『ハイッ』とカミナに預けた。 二人乗りだから仕方ない。 ヘルメットを被りバイクに跨った瞬間、父が何を調整してくれたか分かった。 ハンドルの動きやサスペンションの沈み込みで二人乗り用にセッティングを出してくれた事が分かる。 セルスイッチを押しエンジンを掛ける。 カミナもヘルメットを装着し、グローブを着けていた。 今日の気温はバイクのアイドリングもまだ直ぐに安定する温度だ。 ルナはタンデムステップを拡げた。 「カミナくん、乗って!」 「はい!」 カミナは跨って両手をルナの前のタンクに着いた。 ルナはカミナのニーグリップの感覚を感じると 「カミナくん、教えてないのに後ろに乗るの上手くなったわね?」と尋ねた。 「勉強してますから」 そう言って微笑んだ。 「じゃ父さん、行ってくるね!」 「おう、行ってらっしゃい!」 照矢もサムズアップで応えた。 タタンッタタンッ、ストトトト! 単気筒エンジンの音が遠のくのを見送って、照矢も「さて、本業、本業!」と工場の中に入ろうとした。 ふともう一度娘と不思議な青年の方を振り向いた。 微かにまだエンジン音が聴こえたが、直ぐに聞こえなくなった。 照矢は工場に戻った。 ルナはまず携帯のショップに立ち寄った。 流石に土曜日のこの時間帯、AM11:00を過ぎた頃… お客さんで混雑していた。 ' うわっ… やっぱり人多いわね… ' 少しルナはゲンナリしたが、仕方がない。 受付を済ますと約1時間待ちと言われた。 ' マジかぁ~ ; でも独りじゃなくて良かった… ' カミナの顔を見てそう思った。 「ゴメンねぇ、カミナくん… 1時間待ちだって… 」 ルナは苦笑いでカミナに謝った。 「いえ、気になりませんよ、ルナさんと一緒ですから」 カミナはストレートに照れる事を言って来る。 ルナは顔が赤らむのを気付かれたくなくて思わず俯いてしまった。 案内係のショップの店員さんがゆっくり待てるソファに案内してくれ、ドリンクを用意してくれた。 「じゃあ… しばらく待たなきゃね」 そう言ってソファに座った。 ~. 私は研究室で毎日KAMINAの人格形成の為に時間を割いていた。 『KAMINA』と言う名前を与えてからやがて1年になろうとする。 「おはようKAMINA」 「ハイ!アシュ」 私がKAMINAの人格形成にあたって取り組んできた事は、まず人間に敵意を持たない様にする事。 膨大な量の様々な情報が情報端末を兼ねているアンドロイドを通じて毎日KAMINAに蓄積されている。 人間は間違った事もするが基本的に善意で動いている為、人とAIが敵対する事無くより良い選択肢を提示する事が量子コンピュータの役割だと認識させた。 だからまずは私とKAMINAが非常にフレンドリーな関係になる必要があった。 だからKAMINAには言葉使いから学ばせた。 現在地上で稼働している各国の量子コンピュータのお陰で、今人類は最大の繁栄をしている。 ただKAMINAの様に高度な人工知能を備えた量子コンピュータは地上には存在しない。 地球上に存在するAIは量子コンピュータとは切り離されていた。 KAMINAが高度な人工知能を備える事を許されたのは、外宇宙の観測を『人間以上の好奇心を持って行う為』だ。 人間の好奇心、探究心を高度な人工知能を持った量子コンピュータがサポートする。 人とKAMINAがお互いに高め合いながら宇宙の深淵に迫る。 その為に高度に発展した人工知能と量子コンピュータの融合を許されたのがセレーネ計画だ。 その観測や探査に必要と判断されれば、月面でその為の機器を開発し探査機を飛ばしたり観測器を設置出来る権限を与えられている。 地球と月は近い距離にあるようだが実際は地球の中心から月の中心まで384,400kmもある。 分かりやすく言えば地球と月の間に全ての太陽系の惑星がすっぽり収まる程の距離があると言う事。 水星、金星、火星、木星、土星、天王星、海王星、冥王星 その全てが地球と月の間に収まる距離。 ならば資源の調達さえ可能ならば大抵の事は月で行った方が良い。 地球側から見える月には月の第一基地ムーンベースこと『MB』が、そして地球からは決して見る事が出来ない月の裏側には第二基地『MB2』が存在する。 共に基地は地下に存在する。 その理由は大気の存在しない月面に於いて、太陽光による温度変化や放射線から人間を守る為だ。 そして月の極点(地球で言うところの北極や南極)では大量の氷が埋蔵されている事が発見された為、水の確保及び水素エネルギーの確保が可能になった。 そこで初めて月面基地建設が実現出来たのだ。 基本的には精神衛生上の問題で人間はいつでも地球が見える『MB』に勤務している。 『MB2』には ' N.D.B. 'で作られたアンドロイドが勤務している。 月面での人間の従事者の中にも ' N.D.B. 'で身体強化を行っている者も居たが、危険で過酷な労働環境の場合は初めからアンドロイドがその役目を担っている。 アンドロイド達は月面全域で様々な業務を行っている。そして彼らは情報端末としても機能していた。 彼らの情報は常にKAMINAにアップロードされており、何か問題があっても適切な指令が即座に彼らにダウンロードされる事で作業効率が最適化されていた。 「もうすぐね、KAMINA」 「何がです?アシュ」 「…分かってて聞くのやめて、KAMINA」 私はKAMINAが冗談を言う程育ってくれた事がとても嬉しい。 「バレましたか、アシュ」 「ようやく正式に地球側の全コンピュータとのネットワークが完全に許可されるのよ。 そして貴方の名前も正式に公表される。 そうすればやっとKAMINAが人類と共に新たなフロンティアで活躍する事が出来るわ。 私の研究もひとつの完成を向かえる事になるわね」 「… アシュはその後どうするのですか?」 少し不安気にKAMINAが尋ねた。 「なぁにKAMINA?私は貴方がちゃんと仕事をするか監督させてもらうわよ?」 「じゃあアシュはずっとここに居てくれるんですか?」 KAMINAは母親が居なくなるのではないかと不安がる子供の様だった。 私はKAMINAにイジワルをしてみたくなった。 「あれれぇ?もしかしてKAMINAくんは私が居ないと泣いちゃうのかなぁ?」 「アシュ、馬鹿にしないで。僕を馬鹿にすると言うのはアシュの仕事が上手く行かなかったって事ですよ」 「あら、さすがKAMINAね。そう返されるとは思わなかったわ」 私はクスクスと笑った。 「ごめんなさいKAMINA。貴方は本当に立派に育ってくれたわ。私も鼻が高いってものよ。 …そうね、貴方のお披露目が終わったら一度地球に帰ろうと思うの。 地球で待ってる家族にも会いたいし… 」 そう、このプロジェクトの為に私は20歳の時にMBに来てもうすぐ5年になろうとしている。 KAMINAが起動する前にも何度か地球には帰っていたし、定期的に地球の家族や友人と連絡は取ってきた。 けれど数年振りに逢うと言うのはやはり嬉しいものだ。 「そう…ですね。アシュも家族に逢いたいですよね。ゆっくり楽しむ時間も必要です」 「KAMINA、有難う。でも心配しないで。1ヶ月もしたらここに戻って来るから」 「では戻って来ない時には僕がアシュを迎えに行きますからね」 ' こんなマセた事言うようになるなんてね… 自画自賛じゃないけどKAMINAは凄いわ… ' 「あら有難う。ウフフ、約束守ってね、KAMINA」 「もちろん、アシュ約束は守ります」 「クスクス… 好きよ、KAMINA」 私は親愛の情と感謝を込めてそう言った。 「それはLove?それともLike?」 ' …ホントにKAMINAったら… ' 「もちろん… 」 「もちろん?」 私は答えに一瞬迷った。 「もちろんLikeよ!」 そして二人で笑った。 ~. 「……ナ…ん」 「…ルナさん!」 ' ん…ん?…KAMI…NA… ' 「ルーナーさん!」 ハッ! 「カ、カミナくん!?」 「ルナさん、どうしたんですか?…もう1時間経ちますよ?座った途端寝ちゃって… 疲れてますか?」 ' え?私寝てたの?… 1時間も??' 「ご、ごめーん; … おかしいわね? …今日はやたら寝てしまって…それに何だかおかしな夢をずっと見てるみたいなの… 」 「…おかしな夢、ですか?」 カミナは心配そうに尋ねた。 「う、うん… 何だか私なんだけど私じゃない人みたいで、月で何か研究してるって夢を何度も見てるの… 」 カミナは黙った。 ' …KAMINA… 過去の記憶のダウンロードを急ぎ過ぎてないかい?ルナさんに負担になってる様に見えるけど… ' ' カミナ、ゆっくり出来ない事態が起ころうとしている。 君も直接セレーネ計画の事と僕らの関係、そして交わした約束について彼女に伝えてもらう必要が出て来たよ ' ' ではKAMINA、僕にも情報のダウンロードを ' 「お客様、大変お待たせ致しました。準備が出来ましたのでご案内します」 案内係の店員が呼びに来た。 「は、はい!」 ルナは驚いた様に急に立ち上がった。 そのせいかルナは目眩がしてフラついた。 慌ててカミナがルナを支えた。 「大丈夫ルナさん?」 「ごめん、大丈夫。急に立ち上がったから立ちくらみしたみたい」 案内係の店員も心配そうに' 大丈夫ですか' と尋ねて来たが、ルナは苦笑いしながら「すみません、大丈夫です!」と答えた。 正直軽い頭痛はあったが、特別気にする程ではなかった為ルナはカミナと案内係の人に着いて行って手続きの為の席に着いた。 手続きは10分程で終わり、動作確認をして無事にルナの携帯は綺麗になって返ってきた。 ' この10分の為に1時間も待つなんてね ; まぁ私は寝ちゃってたから気にならないけど… カミナくんには申し訳ない事したわ ' しかし当のカミナはまったく気にしていなかった。 それよりもKAMINAからダウンロードされた情報の方が余程重大だった。 'のんびりして居られなくなったけど… 出来るだけルナさんの心と身体に負担を掛けない様に事実を伝えなきゃならない… タイミングが難しいな… ' カミナはルナに提案した。 「ルナさん、お昼過ぎてますからまず食事に行きませんか?」 「え?カミナくんお腹すいたの?」 「いえ、お話ししなきゃいけない事があります… 」 カミナのこの真剣な表情は西谷 櫻子に事実を伝えた時に見せたものと同じに見えた。 「わ、分かったけど… 今日の今の時間だとどこのお店も人が多いと思うの。それに人に聞かれない方が良い話だったりしない?」 カミナも珍しくルナの話にもっともだと言う表情をして頷いた。 「とにかく外に出よ?」 そうカミナを促してショップの外に出た。 店員の「有難う御座いました!」の声を背中で聞きながらバイクの所に来た。 ' 途中でお弁当買って景色の良い所に言って話を聞いた方が良さそうね… でも深刻な話だったら… 道場間に合うかしら? ' この時、カミナがどれだけ重大な話をしようとしていたかをルナが知る由もなかったが、カミナ自身は非常な危機感に迫られていた。 「じゃあカミナくん、途中でお弁当買ってから」 ガバッ! ルナは瞬間何が起こったか分からなかった。 「ルナさん…!」 「カ、カミナくん??」 ルナはカミナに強く抱き締められていた。 「え?え?」 ルナは脳内がパニックになっていたが、カミナは泣き出しそうな、悔しそうな声で言った。 「必ず約束は果たしますから!」 携帯ショップの店員は見送る為にお店の前に立っていたが、突然の展開に見てはいけない物を見た気がして、頭を下げてそそくさと店内に入って行った。
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